看護学生の世界を撮ったドキュメンタリー映画




看護実習

パリ郊外の看護学校が舞台の
ドキュメンタリー映画公開へ

フランスのパリ郊外にあるさほど大きくはない看護学校――。
この学校で看護師を目指して学ぶ学生40人が実習に取り組む日々を、150日間にわたり追跡したドキュメンタリー映画が日本でも公開されています。

題して『人生、ただいま修行中』。
カメラを回したのは、40年以上にわたりドキュメンタリー映画を撮り続けてきたフランスの巨匠、二コラ・フィリベール監督(68歳)です。

公開に合わせ来日したフィリベール監督は10月9日、聖路加国際大学で特別講義を行っています。
そのなかで、「個人主義の時代に、誰かのために働こうと志す若者たちに対する激励の気持ちでこの映画を製作した」と語ったことが小さな囲み記事で紹介されています*。
*産経新聞2019年11月20日

看護学生がつまずいたり、悩んだり、
患者を前にたじろぐ姿に国境はない

フィリベール監督による映画『人生、ただいま修行中』は、11月1日から新宿武蔵野館(東京)で上映されています。
公開を待って、早速友人と観てきました。

リアルに映し出される学生たちの真剣な眼差しに、生と死に深く関わる現場で働くことへの覚悟のようなものを感じとり、思わず背すじを正す瞬間が何度かありました。

その一方で、
「看護師を目指す卵たちがつまずいたり、悩んだり、さらには患者を前にして一瞬たじろいだりする姿に国境はないのだなあー」
などと、ちょっと安堵するような気持ちにもさせられました。

映画『人生、ただいま修行中』は、この先順次全国の映画館で上映される予定とのこと。
今まさに看護師修業中の方はもちろんですが、かつて看護師の卵として学んだ方たちにも、是非観ていただきたいと思い、紹介させていただきます。

監督自身の入院経験が
看護学校を舞台に選ぶ糸口に

ドキュメンタリー映画界の巨匠として世界的に知られるフィリベール監督は、これまでも何度か学生たちの「学びの場」を撮影の舞台に選んできました。

たとえば、「ろう者」と呼ばれる、先天的に耳が聞こえない、しゃべることができない生徒たちが生活するろう学校で、彼らと教師たちが手話を介して交流する世界を撮った1992年公開の『音のない世界で [DVD]』は、その代表でしょう。

フランスの片田舎にある小さな小学校に通う13人の子どもたちと、退職を目前に控えた1人の老練教師との心温まる交流を描いた『ぼくの好きな先生 [DVD]』(2002年公開)も、舞台となったのはやはり学びの場でした。

そして今回選ばれた舞台は、看護師の卵たちの学びの場である看護学校です。

「病院は社会の縮図」と言われるように、そこにはさまざまな人間ドラマがあります。
そのドラマをフィルムに収めようと、病院で働く医師や看護師たちにカメラを向けた映画やテレビドラマは日本にとどまらず内外に数多くあります。

そんななか、フィリベール監督が今回選んだ舞台は、なぜ看護学校だったのでしょうか。
さまざまなメディアから重ねて繰り返し向けられるこの問いかけに、監督は、自らの入院経験が大きく影響しているからだと語っています。

看護学生の胸には一様に
「誰かの役に立ちたい」思いが

フィリベール監督は2016年、「エコノミークラス症候群」という呼び名で一般にも広く知られる「肺塞栓症」を発病し、救急センターに搬送されて危うく一命をとりとめる、といったシビアな体験をしています。

一命をとりとめた後の、監督曰く「少々退屈な入院生活」を送るなかで目に入ってきたのが、「誰かの役に立ちたい」「誰かのために働きたい」といった純粋な、しかしゆるぎない思いを胸に簡単ではない実習に励む看護師の卵たちと、そんな彼らを時に厳しく、時に優しく支える看護教員の姿だったそうです。

『人生、ただいま修行中』のタイトルどおり、血圧測定や採血、心臓マッサージ、さらには手洗いの方法など、基本的な看護の技の上達のため汗して励み、なんとか自分のものにしようと奮闘するシーンが、数多くとらえられています。

いずれも一般の方はなかなか見ることができない世界でしょう。
それだけに、看護とか医療といった世界とは全く異質なIT業界で働いている友人が、
「看護師さんって、あんなに厳しいトレーニングを重ねてきているんですね。私だったら、おそらく途中でギブアップだろうから、ホント尊敬しちゃうわ」
と感想を漏らすのを聞き、臨場感をもって看護師という仕事を知ってもらううえでは貴重な映画なのだと、改めて関心させられました。

看護学生から看護師へ
成長していくプロセスが力に

それと同時に、むしろ私が深く感銘を受けたのは、末期がんや精神疾患、HIVといった、いわゆる「かかわりの難しい患者」を前にして、一瞬たじろぎながらも、そこから逃げだしたい気持ちを必死に抑えて懸命にかかわりを深めようとする学生たちの姿でした。

顔つきが変わるほど緊張する学生に、
「つらい時は泣いていいのよ」
とやさしく声をかける看護教員の姿も、取材先で目にした風景と重なり、ひときわ印象的でした。

「実習先で、あなたは看護師に向いていないって言われた……」
そう言ってしょげかえっている学生に、
「そんなの余計なお世話よね!」
と軽く笑い飛ばして励まそうとする教員の姿にも、似たような場面を実際に目撃したことがあるだけに、「ある、ある」と共感しながら観ることができました。

看護学生が看護師という1人の社会人を目指し、人間的にも成長していくプロセスから、大きな力を与えられる作品です。

映画『人生、ただいま修行中』の上映劇場、上映日時に関する情報は、配給元のロングライド公式サイトから確認することができます。
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=tadaima