「糖尿病」の名称変更により社会的偏見一掃へ

糖尿病

患者の9割が
「糖尿病」に抵抗感や不快感

11月14日は「世界糖尿病デー」。毎年この日を機会に、糖尿病の予防や治療の重要性を広く一般に啓発するキャンペーンが、国内はもとより世界各地で展開されています。

今年は、「アドボカシー ~偏見にNO!~ 」をテーマに、糖尿病という病気そのもの、さらには糖尿病のある人への正しい理解を求める啓発活動に特に力が入れられています。

「糖尿病」という名称については、患者の約9割が抵抗感や不快感を抱いていることが日本糖尿病協会*が実施した患者アンケートで明らかになっています。

先刻ご承知のように、糖尿病にはⅠ型とⅡ型があり、その発症には遺伝的な体質、過食や運動不足といった生活習慣など複数の要因が関係しています。

ところが「糖尿」という名称は「甘いものの食べ過ぎ」「だらしない」「不潔」といったマイナスイメージにつながりやすく、病名が患者に対する社会的偏見の一因になっているというのが、抵抗感や不快感の理由としてあげられています。

日本糖尿病協会は10日、この調査結果を公表するととともに、「糖尿病」の名称変更に向け、日本糖尿病学会等の関連学会と検討を進める方針を明らかにしています。

*日本糖尿病協会は、糖尿病のある人とその家族、糖尿病領域で活躍する医師、歯科医師、看護師、栄養士などの医療スタッフ、企業人、市民らによって構成される団体。糖尿病に関する情報発信、研究活動、国際交流などを行っている。

日本糖尿病協会が進める
「アドボカシー活動」

日本糖尿病協会は、2019年8月4日に日本糖尿病学会と設置した合同委員会を拠点にアドボカシー活動*を展開しています。

その活動の一環として、医療現場において日常的かつ習慣的に使われている糖尿病にまつわる「ことば」のなかで、スティグマ、つまり正しく理解されていないために生じる偏見や差別が生じがちな用語を見直す取り組み(プロジェクト)を行っています。

まずは医療現場を起点に、糖尿病にまつわるマイナスイメージを一掃して、糖尿病のある人が社会的偏見や差別に振り回されることなく、前向きに治療に取り組む環境を整備しようという意図で行われているものです。

先の調査結果はこの活動の一つで、2021年11月から同協会が公式ホームページ上で糖尿病のある人を対象に実施しているアンケート(「糖尿病」病名に関するアンケート)*¹に、2022年9月までに寄せられた1087人の回答をまとめたものです。

*アドボカシー(advocacy)を日本語に直訳すれば、「擁護」や「支持」、あるいは「代弁」となる。医療・福祉領域では「患者の権利擁護」の意味で使われることが多い。詳しくはこちらを。
がん看護において「セルフアドボカシー」への視点は重要だが、この言葉にリアリティが感じられないとの声は多い。がん看護専門看護師の近藤まゆみさんは著書の中で、がんを病んでいることにひるむことなく、自分らしく生き抜いていくことと、説明している。

糖尿病のある人に尋ねた
「糖尿病」という病名への思い

「糖尿病」では尿に糖が含まれる場合があることから、1980年代の中頃から「糖尿病」と呼ばれるようになり、その名称が定着して現在に至っているものです。

公表された調査結果を見ると、この名称をどう思うかという問いに、回答者の27.4%が「不快である」、25.1%が「とても抵抗がある」と答え、「抵抗がある」「少し気になる」を含めると90.2%に上っています。

また、「糖尿病」を「疾病の実態を正確に表す言葉に変えた方がいいか」という問いには、79.8%が「そう思う」と回答しています。

記述式で尋ねた「変えた方がいいと思う」理由としては、「排泄物の名前が入っている」のほかに、怠惰、自己責任、不摂生、ぜいたく病といったマイナスイメージがあるとの意見が少なからずみられます。

これまでにも病名をめぐっては、「らい病」が「ハンセン病」に、「痴呆症」が「認知症」に、「精神分裂病」が「統合失調症」に変更された例があります。

このうち「統合失調症」については、患者家族会が問題を提起して要望書を提出したのを受けて日本精神神経学会で議論を重ね、約9年後に実現したという経緯があります。

「糖尿病」についても、名称変更に至るまでには関連学会や厚生労働省などとの長期にわたる議論が必要で、一朝一夕にはいかないだろうことは明らかです。

この点について日本糖尿病協会の山田祐一郎業務執行理事は、1~2年の間に適切な病名を提案し、関係組織等に変更を働きかける考えを示しています。

偏見や差別を生みやすい
糖尿病医療用語

糖尿病という病気や糖尿病のある人に対するスティグマ、いわゆる社会的偏見や差別は、糖尿病に関する不正確な情報や知識に基づくあいまいかつまったく誤った認識に基づく「ことば」によって生じることが多いのが現実です。

このスティグマを放置していると、糖尿病のある人は自分が糖尿病であることを周囲に隠そうとして適切な治療を受ける機会を失い、そのためにかえって重症化するといったことにもなりかねません。

名称変更に向けた取り組みに先行して、日本糖尿病協会が進めている「糖尿病にまつわる❝ことば❞を見直すプロジェクト」では、まずは糖尿病に関わる医療スタッフらに向け、糖尿病のある人に配慮したことばの使用の推進に理解と協力を要請しています。

具体的には、「スティグマを生じやすい糖尿病医療用語」*²をリストアップし、適切な用語としてそれぞれの代替案を提示していますので、その一部を紹介しておきます。

  • 糖尿病患者 ⇒ 糖尿病のある人
  • 小児糖尿病患児 ⇒ 糖尿病のある子ども
  • 療養指導 ⇒ 治療支援、治療サポート、教育など
  • 療養支援 ⇒ 糖尿病がある人のサポート
  • 療養生活 ⇒ 糖尿病ライフ
  • 糖尿病療養指導士 ⇒ CDE
  • 血糖コントロール ⇒ 血糖管理、マネジメント
  • 血糖コントロールがよくない ⇒ 血糖管理がうまくいかない
  • 血糖コントロールの悪化 ⇒ 血糖管理が難しくなる
  • 栄養指導 ⇒ 栄養のアドバイス

参考資料*¹:「糖尿病」病名に関するアンケート

参考資料*²:スティグマを生じやすい糖尿病医療用語と代替案