糖尿病患者の診療記録ノート
「糖尿病連携手帳」で地域連携を
糖尿病患者用の「糖尿病連携手帳」をご存知でしょうか。
糖尿病とその合併症には、長期にわたり治療を継続することが必要です。
その基本として欠かせないのが、患者自身による生活習慣の自己コントロールでしょう。
加えて、患者が入院中はもちろん退院した後も、糖尿病専門医やかかりつけ医を中心に、合併症の評価や診療に欠かせない歯科医師や眼科医、さらには療養指導スタッフとしての看護師や薬剤師、栄養士などからなる医療チームが、それぞれの役割を担いながら患者の自己コントロールを支えていくことも重要になってきます。
そこで、患者と医療関係者間、および医療チームにおいてはスタッフ間の、さらには病院と地域関係者が治療方針や検査結果などの情報を共有しながら連携強化を図っていくためのツールとして日本糖尿病協会が考案・作成したのが、この「糖尿病連携手帳」です。
2010年に初版が発行されて以降、患者のニーズに応えて内容を見直し、修正を加えながら改定を重ね、2016年2月には第3版が刊行されています。
厚生労働省による2017年の患者調査では、糖尿病により医療機関で治療を受けている患者は年間328.9万人とのこと。このうち200万人余りが利用しているとされるこの手帳の、最新の改訂ポイントをまとめておきたいと思います。
「よりよい糖尿病療養生活」から
「より豊かな暮らし」に変更
「糖尿病連携手帳 第3版」の改定のポイントとしてまず注目すべきは、手帳を開いたすぐのページ(p.1)の下段にある糖尿病患者に向けたショートメッセージです。
これまでの版を見てみると、そこには「よりよい糖尿病療養生活」という表現がありました。
ところが本改訂版ではそれが、「より豊かな暮らし」というフレーズに変わっているのです。
この点について、改定委員長を務めた糖尿病専門医・指導医の野見山崇(のみやまたかし)氏(福岡大学医学部内分泌・代謝内科 准教授)は、あるブログで、糖尿病患者が血糖コントロールだけに振り回されることなく、トータルライフとして幸せになってほしいとの願いを込め、「より豊かな暮らし」に変えたと、記しておられます(コチラ)。
「必要な情報が一目でわかる」ページ構成に改訂
この改訂コンセプトは、ページ構成にも大きく反映されていて、「必要な情報が一目でわかる」ように、随所で工夫が施されています。
たとえば「基本情報」のページ(p.4-7)には、患者の個人情報(氏名、住所、身体情報、生活習慣)と病態、かかりつけ医などの受診状況がコンパクトにまとめられています。
また、毎月の検査結果を記入するページ(p.8-13)では、1ページ見開きで6回分の検査結果(体重、血圧、HbA1cなどの採血・検尿結果)を一覧することができ、長期の経過が一目瞭然となるように改訂されています。
その下段には治療や療養指導のポイントを記すスペースも用意されています。
さらに、年に4回の眼科・歯科の受診結果を記入するページ(p.14-15)を新設しています。
ここも1ページ見開きに集約され、一目で経過がわかるようになっています。
合併症関連の検査結果を記入するページを新設
年に2回の合併症関連の検査結果を記入するページ(p.16-19)も新設されています。
ここでは、糖尿病の三大合併症である「神経障害」「網膜症」「腎症」の検査に加え、「歯周病の有無」「足チェック(下肢病変を記載)」「頚動脈エコー(動脈硬化の発症進展を検査)」など、多岐にわたる検査項目がリストアップされ、検査結果を記入できるようになっています。
また、空欄も用意されています。
そこには、認知症が疑われる患者は長谷川式簡易知能評価スケールの点数を、また脳血管系疾患の既往がある患者は頭部MRIの結果を記入していくなど、患者個々の病状に応じた課題を追跡していくことにより、異常の早期発見、対応につなげる工夫がなされています。
糖尿病連携の輪に
ケアマネジャーが新たに加わる
今回の改定版で看護サイド、特に退院支援を担当している看護師さんに目玉の一つとして注目していただきたいのは、「糖尿病連携の概略と説明」の見開きページ(p.2-3)です。
ここでは、さまざまな職種がそれぞれの役割を分担し、連携して糖尿病患者の診療、療養指導を行っていくことを見開きで、イラストを使って説明しています。
そこに描かれている連携の輪には、たとえば「病院」に所属する看護師さんには、「医療チームによる教育・合併症の評価・治療方針の決定」が、また「保健師」には「重症化予防の保健指導と受診勧奨」が役割として簡潔に記されています。
そして、今回の改定でこの連携の輪に新たに加えられたのが「ケアマネジャー」です。
糖尿病患者の高齢化に伴い、介護現場での連携が必要となるケースがこの先増えることを見込み、新たな連携先として加えられたもので、その役割は「介護の現場で主治医と情報を共有」と明記されています。
新設された「療養指導の記録」を
ケアマネとの連携強化に活用を
日本糖尿病協会が制作した患者向け、あるいは療養指導スタッフ向けの教育素材は数多くあります。そのなかの「糖尿病カンバセーションマップ™」と「糖尿病療養指導カードシステム」が新設されたページ(p.20-23)で紹介され、教育状況を記入できるようにもなっています。
また、これらの教材などを用いた療養指導を受けた、あるいは行った際に、その指導内容などを患者や看護師らが記録しておくページとして「療養指導の記録」(p.24-27)も新設されていて、連携の強化に活用できそうです。
糖尿病患者の療養指導はもちろんですが、糖尿病患者の退院支援において、地域関係者、とりわけケアマネジャーとの連携に是非とも活用したい手帳ではないでしょうか。
糖尿病連携手帳は無料で入手できます
なお、糖尿病連携手帳は、日本糖尿病協会が発行し、無料で配布されています。
患者自身の自己コントロールのための活用はいうまでもないでしょう。
加えて、複数の医療機関を受診するときに医療機関の間での情報共有が可能となるうえに、事故などでの急な入院の際の情報共有にも役立ちます。
糖尿病連携手帳は、医療スタッフを含め、誰でも入手できます。入手方法については日本糖尿病協会のホームページに詳細がありますので、コチラにアクセスしてみてください。
「糖尿病」の名称変更に向けた動き
糖尿病については、病気の実態と病名にズレがあり、病名から受けるマイナスイメージによって患者が偏見や差別を受けやすいという問題があることから、病名変更に向けた検討が進んでいます。詳しくはこちらを。