抗うつ薬が効かない
うつ症状の改善に新治療法
抗うつ薬を飲んでもうつ症状の改善が思わしくないという患者は少なくないようです。
このような場合の新しい治療法として、2008年にアメリカで承認され、その後欧州各国でも広がりを見せている磁気刺激法が、近年日本でも普及しつつあることをご存知でしょうか。
ストレスを感じることの多い現代社会において、うつ病は誰がなってもおかしくないといわれるほど極めて身近な病気になっています。
厚生労働省の患者調査によれば、躁うつ病を含む気分(感情)障害で2017年に医療機関を利用した患者の数は、全国で120万人を超えています。
抗うつ薬がなかなか効かないうつ症状の改善を期待して、この磁気刺激法を希望する患者がこの先ますます増えるものと予測されます。
そこで診療補助の観点から、看護師として知っておいていただきたいいくつかのポイントをまとめておきたいと思います。
2019年6月から
磁気刺激法が保険適用に
この磁気刺激法、正式名「反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)を用いた治療法」は、磁気発生装置で作り出した磁気を使って頭皮に刺激を与え、脳の特定部位(左前頭前野)を活性化させて脳血流を増やすことによって低下した機能の回復を図ろうとする治療法です。
日本では2017年9月、この治療に使われる磁気発生装置が、既存の抗うつ薬では十分な効果が認められない成人うつ病患者の治療を行う装置(高度管理医療機器、特定保守管理医療機器)として、薬事承認されています。
この装置を用いた磁気刺激法は、当初保険診療外、つまり自費診療として一部の医療機関で行われていましたが、今年(2019年)6月からは保険適用が認められています。
これにより、当面は決められた磁気発生装置(NeuroStar TMS治療装置)を用いた場合に限るという条件付きながら、1200点の診療報酬点数を請求できるようになったことから、さらに多くの医療機関でれるようになるものと思われます。
TMS治療装置の適正使用指針
日本精神神経学会がまとめる
保険適用に向けた動きと併行して日本精神神経医学会は、この治療で用いられる磁気刺激装置が適正に使用されるよう、安全性や医療倫理の観点から検討を重ねて、その結果を適正使用指針として2019年4月に公表しています。
本指針ではこの磁気刺激法の適応を、既存の1種類以上の抗うつ薬を至適容量を用いて十分な期間、適正に治療を行い、いずれの抗うつ薬でも期待される治療効果が認められない18歳以上のうつ病患者、としています。
一方で、上記適応に該当していても、以下のいずれか一つにでも当てはまる場合は、磁気発生装置の使用は禁忌であり治療の対象から外れる、としています。
- 刺激部位の近くに人工内耳のような金属がある患者(磁場の影響が出るため)
- 心臓ペースメーカーなど体内埋め込み型装置を装着している患者(誤作動の恐れがある
- 重篤な身体疾患を合併している患者
- 妊娠中の患者
また、てんかんやけいれん発作の既往がある患者は、絶対的禁忌とはいえないものの、磁気刺激がけいれん発作を誘発するリスクが軽微ながらあることから、脳神経外科や神経内科などの専門医と相談して実施を判断するよう求めています。
磁気刺激中患者のモニタリングに
指定講習会受講済みの看護師も
この磁気刺激法を実施するには、当然ながら担当医によるインフォームドコンセントを行うことが前提となります。
つまり患者本人と家族に対する文書と口頭による十分な説明と、患者本人の文書による同意が必須とされるわけです。
同時に、患者と家族への説明の際は、先行研究から予想される副作用についても漏れなく伝えることもインフォームドコンセントに含まれる、としています。
実施者の基準要件
また指針では、うつ病患者に対する磁気刺激法の実施者に対しては、次の3要件をすべて満たすことを求めています。
- うつ病の鑑別診断、治療手順に関する十分な知識と経験を有する精神科専門医であるこ
- 磁気刺激法に関する知識、技術に習熟していること
- 「2」の要件を満たすために2種類の講習会を受講済みであること
2種類の指定講習会
このうち「3」にある2種類の講習会とは、①日本精神神経学会が主催する講習会と、②磁気発生装置製造者または販売代理店が実施する実技講習会の二つです。
これらの講習会の受講対象者には、精神科専門医や医師に加え、医療スタッフとして看護師、臨床検査技師、理学療法士または言語聴覚士が含まれています。
受講済み看護師に許される業務
この場合、講習会を受講した看護師ら医療スタッフに許される業務として、治療中(磁気による刺激中)の患者のモニタリングをあげています。
さらにこの場合のモニタリングについては、ビデオモニターのみでモニタリングするのではなく、必ず治療中の患者の傍らに立ち合い、副作用や病状の悪化を含む有害事象が認められたときは、速やかに治療担当医に報告して対策を講じること、と説明しています。
モニタリングに併行して治療継続のための支援も
この治療法は、平均的な方法として週に5日通院し、6週間、30回まで行われます。
1回の治療には約40分を要するうえに、最初のうちは刺激部位に軽く叩かれるような痛みを感じたり、頭痛や不快感を伴うこともあるようです。
そのため治療を断念しようとする患者も少なくないそうです。
そんなときこそ、痛みを感じるのは初めだけで治療を重ねるごとにからだが慣れて痛みを感じなくなってくること、慣れるにつれて治療中に読書などもできるようになることなどを患者に伝えて治療の継続を促す役割も、看護師には期待されるのではないでしょうか。
なお、日本精神神経学会の適正使用指針の詳細はコチラからダウンロードできます。
指針のp.17以降にはインフォームドコンセント用文書のひな型や同意書の書式、モニタリングに役立つ副作用のチェック表なども収められています。
関心のある方は是非チェックしてみてください。