知っておきたい新型コロナウイルス感染症治療薬




バイアル

新型コロナウイルス感染症
国内初の治療薬「レムデシビル」

厚生労働省は5月7日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)の国内初の治療薬として、アメリカの製薬会社が開発した抗ウイルス薬「レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液)」を特例制度に基づき薬事承認したことを発表しました。

添付文書によれば、投与の対象となるのは、以下のいずれかに該当する重症患者です。
⑴ 酸素飽和度(SPO₂)94%以下(room air:室内空気下)
⑵ 酸素吸入を必要とする
⑶ 侵襲的人工呼吸器管理を要する患者
⑷ 体外式膜型人工肺(ECMO)導入患者

このうち⑴だけでは国内の基準では中等症に該当します。
しかし、すでに緊急使用が認められているアメリカでは⑴を投与対象としていることから、これに合わせるかたちで国内でも対象に含まれています。

製薬会社からは世界全体で14万人分のレムデシビルが無償供与される見通しです。
当然ながら、国内の供給量は限られることになります。

したがって当面は、国が必要量を把握して管理することとし、特に集中治療室(ICU)で治療中の重症患者から優先的に投与されることになりそうです。

加藤勝信厚生労働大臣は12日の記者会見で、すでに11日から医療機関への配送を始めたことを明らかにしています。

薬機法の特例制度により
レムデシビルを3日で承認

わが国では、新規医薬品の申請から承認まで、通常は1年以上を要します。
今回レムデシビルは、申請の3日後という異例のスピードで承認されています。

この迅速さは、一定の条件下で国内審査の手続きを簡略化できることを定めた薬機法(正式には「医薬品医療機器等法」。旧薬事法)にある「特例制度」を適用した結果です。

薬機法の「特例制度」とは、
⑴ 疾病の蔓延(まんえん)防止のために緊急の使用が必要
⑵ 当該医薬品の使用以外に適切な方法がない
⑶ 海外で販売等が認められている
の3つの条件を満たす医薬品について、臨床試験以外のデータについては承認後の提出でも認めるとする制度です。

この特例承認は、2010年1月に新型インフルエンザの輸入ワクチン2剤が対象になって以来、今回のレムデシビルが2例目です。

レムデシビルについては、アメリカ政府が5月1日に緊急的使用を認めたのを受け、厚生労働省は直ちに「特例承認」に向けた手続きを始めています。
このことが、申請から3日という迅速な承認につながったわけです。

副作用に腎機能障害と肝機能障害

レムデシビルは、ウイルスの増殖を抑えて症状を改善する効果が期待される点滴静注製剤で、もともとはエボラ出血熱の治療薬の候補として開発された医薬品です。

副作用として急性腎機能障害や肝機能障害が現れることがあるため、投与前および投与中は毎日腎機能と肝機能の検査を行うことが求められます。

医師はレムデシビルの投与に当たり、患者もしくはその代理人に有効性と安全性(副作用を含む)について文書で説明したうえで、文書による同意を得る必要があります。

早期の薬事承認が待たれる
抗インフルエンザ薬「アビガン」

新型コロナウイルス感染症の治療薬については、レムデシビル同様、別の病気の治療薬として開発された、あるいはすでに別の病気に使われている既存薬の活用に向け、治療効果に関する研究が世界各国で続けられています。

わが国では、厚生労働省が国立国際医療研究センター(東京)や藤田医科大学(愛知)とともに、複数の治験薬の観察研究*を進めているほか、製薬会社独自の治験も進行中です。

*観察研究とは、医療機関内の倫理委員会等の手続きを経て、患者の同意を得たうえで、本来の適応とは異なる投与等を行った治験について、治療結果等を集積し分析する一連の研究をいう。

いくつかある治験薬のなかで、5月中の薬事承認が期待されているのが、わが国の製薬会社(富士フイルム富山化学)が開発したインフルエンザ治療薬の「アビガン」内服薬です。
なお、アビガンは商品名で、一般名は「ファビピラビル」です

このアビガンについて安倍晋三首相は、5月6日、インターネット中継動画サイト「ニコニコ動画」でノーベル医学・生理学賞受賞者の山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所・所長)と対談した際、新型コロナウイルス感染症の治療薬として「今月(5月)中の薬事承認を目指している」と発言されています。

内服薬のアビガンは
軽症から中等症の重症化防止に

アビガンは内服薬です。
そのため薬事承認後に投与の対象となるのは、経口投与が可能な重症度、つまり軽症から中等症の患者で、重症化を防ぐ目的で使用されることになります。

ただ、アビガンはレムデシビルと異なり、海外での治験はまだ始まったばかりです。
そのため薬機法上の特例承認に求められている3条件を満たすことができず、国内での臨床試験を鋭意進めているところです。

5月4日の時点で、国内の1000を超える医療機関において、およそ3000人の患者に臨床試験の一環として投与されています。

動物実験で胎児に催奇形性リスクが

研究班は、投与を受けた患者の一部に症状の改善が見られたものの、現時点のデータだけでは有効性を判断するのにはまだ不十分と、報告しています。

また、動物実験などで胎児に奇形が生じる可能性、つまり催奇形性(さいきけいせい)といった副作用の可能性が指摘されていることが、添付文書に明記されています。

そのため厚生労働省は、妊婦には投与せず、また将来子どもを持ちたいと考えている若い世代の男女への投与についても慎重な検討が必要、としています。

その他の治療薬候補
オルベスコとカレトラは?

もう1点、新型コロナウイルス感染症の治療薬候補として、アビガン同様、複数の医療機関において臨床研究が行われているのが、ウイルスの増殖抑制作用が期待される吸入ステロイド喘息治療薬「オルベスコ(一般名:シクレソニド)」です。

現時点では、この薬を使わない場合に比べ悪化する割合を下げる可能性が報告されている段階で、有効性を確認するために、さらなる研究が求められています。

また、HIV感染症の治療薬である「カレトラ(一般名:ロピナビルとリトナビルの合剤)」も、一部の医療機関において複数の新型コロナウイルス感染患者に使用されています。

こちらについては、カレトラを内服した群と内服しない群との比較で、感染症の経過に差はなかったとの結果が出ているようです。

参考資料:忽那賢志(くつなさとし)「レムデシビルで重症例の68%が改善 現時点での新型コロナ治療薬の候補は?(2020年4月12日時点)