コロナ禍でも最期まで本人の意思尊重の医療を 日本老年医学会が緊急提言




意思決定

新たな脅威を想定した
ACPの早期実践を提言

高齢者が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすく、また致死率も他の世代に比べ高くなっていることはよく知られています。

感染判明後、急激に状態が悪化し、受けたい治療やケアについて本人の意思を確認できないまま人工呼吸器等の高度医療が行われ、あるいは十分な治療を受けられないまま亡くなっていく高齢者のケースも少なからず報告されています。

国内では、一時は沈静化するかに見えた感染が、ここにきて再び拡大傾向にあります。
感染者の増加に伴い、家庭内感染や高齢者施設内でのクラスター(感染者集団)発生による高齢者の感染事例の報告が日を追って増えています。

そんななか、日本老年医学会は8月4日、高齢の感染者が、人生の最終段階まで「本人の意思決定に基づく最善の医療」を受けられるように、
「もしも自分が新型コロナウイルスに感染したら……」
といった新たな想定を含む「ACP(人生会議)の早期実践」を提言しています。

突然生命の危機に直面し
意思を確認する余裕がない

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期において
高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言
――ACP実施のタイミングを考える――」*¹

このような長いタイトルの提言をまとめたのは、日本老年医学会の倫理委員会「エンドオブライフに関する小委員会」と「新型コロナウイルス対策チーム」です。

コロナ禍が始まる前の医療現場では、人生の最終段階で望む医療やケアについて、本人や家族、医療者等が話し合っておくアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning ;ACP)、いわゆる「人生会議」が、緩慢な普及状況ながらこれまで途切れることなく進められてきました。

その取り組みの多くは、がんのような慢性期疾患の流れのなかで、自らの人生の最終段階について考える、といった比較的時間に余裕のあるケースが多かったように思います。

しかし、今回の予期せぬ新たな脅威、新型コロナウイルスは、とりわけ高齢者や持病のある患者には、「いつもの風邪だと思っていたら感染していた」といったかたちで、突然生命の危機に陥れるような深刻な事態に直面させます。

本人が望む医療について家族や大切な人を交えての話し合いはおろか、本人の意思を確認する余裕すらないまま急遽医療やケアを提供せざるを得ないという、まさに待ったなしの状況に陥れるリスクがあるのです。

新型コロナウイルス感染症は
隔離が必要な新型感染症

しかも、新型コロナウイルス感染症は、がんなどの病気と異なり、人にウイルスをうつすリスのある病気、それも指定感染症です。

いったん感染が判明して隔離状態に置かれると、家族や大切な人とさえ十分なコミュニケーションをとることができなくなり、ACPの実践は一層難しくなります。

こうした点を重視し、提言では、患者本人の意向を反映した最善の医療やケアを受ける権利を保障するために、できるだけ早い時期にACPを、それも新型コロナに感染することも想定した話し合いを実施するよう奨励しています。

同時に、ACPを行わないまま新型コロナに感染して入院するに至った患者で、家族や大切な人と直接面談することが許されないような例では、電話やテレビ電話などによるオンライン面会により家族らが本人の意思を確認できるようにするといった配慮も必要だとしています。

医療崩壊の状況にあっても
年齢によるトリアージは避ける

新型コロナウイルス感染症のような感染症の流行期には、「入院患者のためのベッドが足りない」とか「医療従事者の手が十分ではない」「人工呼吸器が足りない」などといった、いわゆる「医療崩壊」のリスクが否応なく発生してきます。

このような、すべての患者に必要なだけの医療・ケアが提供できないといった状況に直面すると、とかく「高齢者よりも若い患者を優先的に……」などとなりがちではないでしょうか。

この点について提言は、年齢だけを基準に患者を選別するトリアージは、
「エイジズム(年齢による差別)そのものであり、最大限の努力を払って避けるべき」
としています。

その努力の一つとして、感染する前から、あるいは感染が判明したら極力早いうちに、人生の最終段階で望む医療やケアについて本人や家族、医療従事者で話し合っておくべきだ、というわけです。

人工呼吸器による治療は
医学的判断と本人の意思尊重を

さらに人工呼吸器を使用するに際しては、医学的判断に加え、ACPによって得られた本人の意思を尊重して行う必要があることを明示しています。

このとき、場合によっては、人工呼吸器による治療を行っても明らかに回復が望めないと医学的に判断されることもあるでしょう。

その際には、本人の身体への無用な負担を避けるため、人工呼吸器を装着しないことが本人にとって望ましいことを本人や家族に適切に説明する必要があるとしています。

なお、本人が人工呼吸器の使用による治療を受けるかどうか決めかねる場合もあるでしょう。

その際には、使用を拒否する本人の明確な意思表示がないのであれば、人工呼吸器を装着して治療効果を確認してみるべきだとしています。

その場合は、本人と家族に、
⑴ 治療効果を確認するために人工呼吸器を装着して治療を行うこと
⑵ 回復が望めないことが明白となれば人工呼吸器を外すことも選択肢であること
の2点を、装着前に本人と家族に伝える必要があるとしています。

新型コロナウイルス感染症関係者への偏見・差別の根絶を

提言では以上に加え、家族や介護者への配慮の必要性、さらには新型コロナウイルス感染症の患者・家族はもとより、感染リスクと隣り合わせで患者の治療やケアに直接、あるいは間接的にかかわっている人々への偏見や差別の根絶についても言及しています。

参考資料*¹:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期において 高齢者が最善の医療およびケアを受けるために日本老年医学会からの提言―ACP実施のタイミングを考える―」