新型コロナウイルス感染による嗅覚・味覚異常 耳鼻咽喉科学会が受診目安を提示




コーヒー

嗅覚や味覚の異常は
新型コロナウイルス感染の兆候?

プロ野球・阪神タイガーズの藤波晋太郎投手が、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性反応を示していたことが、代理人を通じて公表されました。

検査を受けたきっかけは、いつものコーヒーを飲んだところ「においや味を感じなかった」ことだったとし、「発熱や咳などの症状がなくても安心しないでほしい」
と呼び掛けたのは、つい先日のことでした。

メディアでこのメッセージが流れたのを機に、全国の耳鼻咽喉科外来には、嗅覚(におい)や味覚(あじ)の異常を自覚したからと、
「新型コロナウイルスに感染していないか検査を受けたい」
と受診する患者が、相次いでいるそうです。

こうした事態に、医療機関に同様の患者が殺到してさらなる感染拡大につながることを危惧した日本耳鼻咽喉科学会は3月30日、受診するうえでの目安をまとめ、
「嗅覚や味覚の異常のほかに、発熱や咳などの症状がない場合は、いきなり医療機関を受診しないで、様子を見てほしい」とアピールしています。

嗅覚・味覚に異常を感じても
慌てて受診しない

日本耳鼻咽喉科学会は、WEBサイト上で公表した「嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染について―耳鼻咽喉科からのお知らせとお願い―」*¹のなかで、
「新型コロナウイルス感染症は、発熱や咳・たん、のどの痛み、体のだるさが主な症状ですが、嗅覚(におい)や味覚(あじ)が低下することも分かっています」
と書いています。

そのうえで、
⑴ 嗅覚や味覚の障害は、インフルエンザや風邪、さらには花粉症でも生じることがあり、
⑵ 必ずしも新型コロナウイルスだけが原因ではないこと、
⑶ 新型コロナウイルス感染症による嗅覚や味覚の障害は自然に治ることが多く、
⑷ 特効薬もない、
ことを説明しています。

こうした点に理解を求めたうえで、同学会は、嗅覚・味覚障害を自覚して新型コロナウイルスへの感染が心配な場合の対応と注意点として、以下を提示しています。

  1. 37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や、咳、息苦しさ、だるさがあれば、お住まいの市区町村の帰国者・接触者相談センターに(電話で)ご相談ください。同相談センターは、厚生労働省のホームページ*¹からも確認することができます。
  2. 「におい」や「あじ」の異常を感じても、発熱や咳、息苦しさ、だるさがなければ(新型コロナウイルスの潜伏期間を考え)2週間は不要不急の外出を控えてください。
    医療機関への受診も控え、体温を毎日測定して(記録し)、手洗いもこまめにしてください。
    人と接する際にはマスクを着けて対話をするようにしてください。
  3. 嗅覚・味覚障害の治療は急ぐ必要はありません。自然に治ることも多いのでしばらく様子を見てください。
    特効薬はありませんが、2週間経っても他の症状がなく嗅覚や味覚異常が改善しない場合は、耳鼻咽喉科外来を受診してください。

(引用元:日本耳鼻咽喉科学会WEBサイト*²)

上記1の「相談・受診」の目安について見直しを行っていた厚生労働省は、5月8日、従来の「37.5度以上」という体温の基準を削除し、「発熱が4日以上続く場合」の条件も外して、「発熱や咳などの軽い風邪症状が続く場合には、すぐに相談する」に変更している。
詳しくはこちらの記事を!
→ PCR検査や相談の新たな目安を厚労省が発表

風邪などによる鼻づまりも
嗅覚障害の原因に

そもそも私たちの鼻、正確には鼻腔は、においをかぎとる、つまり嗅覚をつかさどる感覚器官であると同時に、呼吸をする際には、空気(吸気)の取り入れ口であり、かつ呼気の排出口でもあります。

鼻腔の奥深く、脳に接している天井のごく一部に嗅上皮(きゅうじょうひ)と呼ばれる特別な粘膜があり、そこでにおいを感じとっていることは、看護師さんならよくご存知でしょう。

インフルエンザや普通の風邪、あるいは花粉症にかかると、鼻腔内の粘膜が腫れて鼻が詰まった状態となり、空気が通わなくなる、つまり鼻呼吸がしにくくなります。
その結果として、つい口を開けて呼吸をするようになる、といった経験はないでしょうか。

このような鼻づまりの状態になると、
「においを含んでいる空気がその嗅上皮の部分に届かなくなりますから、においも感じにくい、あるいはまったく感じなくなってしまうわけです」
と説明してくれたのは、懇意にしていただいている耳鼻咽喉科の医師です。

嗅覚と味覚は密接に結びつき
食べ物の風味を醸し出す

さらに、今関心が集まっている新型コロナウイルス感染症と嗅覚障害の関係については、次のように説明してくれました。

「もちろんウイルスによるひどい炎症で嗅上皮粘膜そのものがいたんでしまい、においを感じなくなることもあります。ですから、においがわからなくなったから新型コロナウイルスに感染したのではないかと、心配される気持ちはよくわかります。ただ、においがわからなくなるほどの炎症が鼻腔内で起きているなら、発熱とか、咳が出る、のどが痛いといった症状も当然出てくるはずだと、僕なんかは考えますね」

また、味覚の異常については、
「食べ物や飲み物の風味、つまり香りや味わいを感じるうえで、嗅覚と味覚は非常に密接に関係しています。仮に、舌の表面や口腔内の粘膜にある味蕾(みらい)と呼ばれる味を感じとるセンサーが正常に機能していても、嗅覚に異常があって食べたり飲んだりしている物のにおいをかぎ分けることができないと、いつもと味が違うとか、味がわからないといったことになってしまう」のだそうです。

新型コロナウイルス感染者の
嗅覚・味覚異常の報告が世界各国で

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るうなか、この感染症の初期症状の一つとして、嗅覚・味覚障害が認められることがあるとする報告は、世界各地で相次いでいます*³。

たとえば英国の耳鼻咽喉科学会は声明で、韓国や中国、イタリアで、新型コロナウイルス感染者の多くが嗅覚障害を訴えていると指摘。

さらにドイツにおいては、感染が確認された人の3分の2以上に、嗅覚や味覚に異常症状が出ており、風邪などの症状を伴わない例も多いことを紹介したうえで、
「新型コロナウイルスの感染との因果関係は証明されていないものの、ウイルス検査の対象にこれらの症状も加えるべきだ」としています。

感染の疑いを視野に
検査や隔離の対象に含むべき?

また米国の耳鼻咽喉科頭頸部学会も、
「裏づけには乏しいが、新型コロナウイルスに関連した症状として嗅覚や味覚障害の報告が急激に増えている」と認め、
「感染拡大を防ぐためには、副鼻腔炎や鼻炎などが原因でない場合は、感染の疑いを視野に検査や隔離の対象に加えるべきだ」と提言しています。

こうした事態を受けWHO(世界保健機関)は、各国からこの種の報告が続いていることは承知しているとしたうえで、嗅覚・味覚障害が新型コロナウイルス感染症の初期症状の1つなのかどうかについては、現在調査を進めているものの、
「まだ科学的なエビデンスは得られていない」としています。

新型コロナ感染症に特徴的な症状ではない

日本でも、たとえば国内ですでに30人を超える新型コロナウイルス感染症の患者を治療してきた国立国際医療研究センターの忽那賢志(くつな さとし)医師は、NHKの取材に対し、次のように答えていました。

「これまで治療に当たってきた実感としては、嗅覚や味覚の異常を訴えた患者はいましたが、特徴的な症状というには数が少ないと感じています。こうした症状は通常の風邪やインフルエンザなとの感染症でも起こり得るものです。嗅覚や味覚に異常があるからといって、それだけで新型コロナウイルスの感染症とは判断できないと、現時点では考えています」

嗅覚や味覚に異変を感じても、風邪症状が伴わない場合は少し様子を見るのがいいようです。

しかし、どうしても気になるときは、すぐに受診するのではなく、まずはかかりつけ医、あるいは帰国者・接触者相談センターに電話で相談することをおすすめします。

なお、看護師さんが職業感染を疑った場合の対応については、こちらで記事にしています。
併せて読んでみてください。
→ 新型コロナウイルスの職業感染を疑ったら

参考資料*¹:厚生労働省 帰国者・接触者相談センタ
参考資料*²:日本耳鼻咽喉科学会WEBサイト
参考資料*³:2020年3月27日配信 共同通信社