新型コロナウイルス感染症の重症者救命に向けて




レポート

感染者の命を守る医療継続に向け
感染症学会と環境感染学会が提言

新型コロナウイルス感染症の爆発的増加と蔓延が、ヨーロッパやアメリカを中心に世界中で進行するなか、日本においては、少なくとも現時点では、「何とか持ちこたえている」状況が続いていると考えていいようです。

とはいえ、東京などの都市部では、この数日で感染例が急速に拡大し、感染経路の把握できない患者が急増しており、安倍晋三首相は、今日にも(4月7日)7都府県に緊急事態宣言を発出する考えを明らかにしています。

医師や看護師さんの新たな感染も連日のように報道され、医療体制の崩壊が懸念されるなか、
日本感染症学会と日本環境感染学会は4月2日、
「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方――医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するために――」と題する提言を発表しています*¹。

提言では、国内における新型コロナウイルス感染症者の急増により感染症病棟のベッド占拠率が高まっていく状況下にあり、
「何よりも感染患者の命を守る医療が継続できるよう、感染症診療のあり方を柔軟かつ適正に変えていく必要がある」ことを強調しています。

そのうえで、重症者を救命するために軽症者には自宅待機を促すこと、その際は毎日電話で健康状態を確認すること、また医療従事者のこころのケアに配慮した対応を進めていく方針であることなどを提示しています。
以下にそのポイントを紹介しておきたいと思います。

軽症者にはPCR検査を推奨せず
抗体検出法はPCR法の補助に

国民の関心がことのほか高いのは、新型コロナウイルス感染症に対する検査方法です。
この検査法としては、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)などによる遺伝子検出法(鼻咽頭ぬぐい液、あるいは喀痰を検体とする)と、イムノクロマト法による抗体検出法(血清を検体とする)の2パターンを提示しています。

イムノクロマト法による抗体検査(「迅速簡易検出法」とも呼ぶ)とは、ウイルスに感染したときに血清中にできる抗体を検出する血清学的診断法のこと。
検査キットのくぼみに少量の血液と専用の試薬を垂らすだけで、15分もあれば感染しているかどうかを判定することがてきます。

ウイルスの遺伝子を増幅して検出するPCR法が判定に6時間程度を要するのに比べ、抗体検出法はベッドサイドでもできるうえに、文字どおり簡便かつ迅速さが魅力の検査法です。

しかし、抗体検出法はあくまで、発症してから2週間以上が経過し、上気道におけるウイルス量が低下してPCR法では検出感度不十分と想定される場合の「補助的な検査」として用いること、としています。

地域の流行状況によっては感染者が多数にのぼることが想定されます。
こうした事態に備え、PCR検査の原則適応は
「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とし、
「軽症例には基本的にPCR検査を推奨しない」ものの、
「時間の経過とともに重症化傾向が見られた場合にPCR法の実施も考慮する」
と明記しています。

重症者の治療を優先し
軽症者には自宅安静の選択肢も

感染症指定医療機関のベッドが重症者で満床となり、地域全体で診療体制を調整してもベッドが不足する事態も想定されます。
その際には、重症者への治療を重視して「自宅*安静の選択肢も考慮する」としています。
*この場合の自宅には、自治体が用意した宿泊施設を含む

具体的には、「(風邪のような症状はあるものの)全身状態が良好で、胸部画像、血液検査からも軽症と考えられる臨床診断例(抗体検出法で陽性例)で、基礎疾患の有無などからも入院は必要ないと判断される症例」が自宅安静の対象となります。

ただし、高齢、基礎疾患の存在、独居などの要因から重症化が予測される場合には入院とする旨明記されています。

自宅安静者には毎日電話で健康状態を確認

自宅安静の患者に対しては、体温や食欲、だるさなどの健康状態を2週間、毎日1回は電話で確認できる体制を確立するとともに、家族内で感染が広がらないように、こまめな換気に加え、手洗いなどの飛沫・接触感染対策の徹底を指導することとしています。

自宅療養中に症状の悪化が確認され、受診の必要が生じることもあるでしょう。
そうした事態に備え、患者の受診に伴いリスクの高まる院内感染を防止する観点から、外来診療のオンライン化についても検討しておく必要があるとしています。

確立された治療法はないが
重症例を見逃さない対応を

現時点では、新型コロナウイルス感染症に特化された治療法はなく、重症化を見逃さないように気をつけながら、対症療法を続けていくことになります。

この間の重症化を察知する指標としては、以下をあげています。
⑴ 肺炎画像の広がりの程度
⑵ 低酸素血症の存在
⑶ 血液検査異常(リンパ球減少、血小板減少、炎症の指標であるCRPの高値など)
⑷ 長引く倦怠感、食欲不振、高熱の持続など

低酸素血症(動脈血中の酸素不足)が強く、組織への十分な酸素供給が維持できないために、手足の冷えやチアノーゼ、不整脈、呼吸困難、不安感といった症状が確認される場合は、人工呼吸器の装着や人工心肺(ECMO)の適応も検討されることになります。

ECMOは限られた施設で行われる対処法であるため、その導入については、専門機関と相談する必要があるとしています。

なお、対症療法に使用が検討される治療薬については、
「アビガン、クロロキン、オルベスコ、カレトラなどの薬剤の有効性が報告されているが、確立した治療法ではない」として、対症療法による治療を求めています。

感染者も医療従事者も
こころのケアを受けられる体制を

感染者に精神的ケアが必要であることは改めて言うまでもないでしょう。
加えて提言は、新型コロナウイルス感染症の対応に当たっている医療従事者に対する精神的ケアの必要性を強く訴えています。

新型コロナウイルス感染症は、ワクチンはもとより治療法も確立されていません。
ゆえに医療従事者は、感染対策に細心の注意を払いつつ日常業務を行うことが求められ、
「強い精神的ストレスを受けていることが多い」と指摘しています。

そのうえで、新型コロナウイルス感染症の対応に当たっている医療従事者に対しては、
「精神科医・産業医などによる定期的なこころのケアを受けられるシステムを構築しておく必要がある」としています。

精神的につらさを感じたら
信頼できる人に話してみる

新型コロナウイルス感染症に関するこころのケアについては、筑波大学医学系臨床医学域 災害・地域精神医学講座(太刀川 弘和 教授)が、
「災害時の精神医療に携わる医療チームとして、一般の方、メディアの方、および支援者の方に知っていただきたいこと」
を以下の5点にまとめ、WEBサイトで公開しています*²。

1.感染流行ではさまざまなこころの問題が生じます
2.こころとからだの健康を保つ生活を送りましょう
3.正しい情報を適切な量で取り入れましょう
4.パニック、差別、いじめ、風評被害に気をつけましょう
5.支援者の方へ――無理をしないでください

このうち「5」の、新型コロナウイルス感染症の対応に当たる医療従事者を含む支援者に対しては、冒頭で
「日々の活動、本当にお疲れ様です。皆様の働きによって多くの人が救われています」
と、感謝の言葉が書かれています。

そのうえで、具体策として以下を提案しています。
⑴ 業務にあたっては、こまめに休息をとり、決して無理をしないこと
⑵ 仮に行動を制限されるような場合にも、苦労話を共有できる仲間と連絡をとり、
⑶ お互いをねぎらい、孤独に陥らないように留意する
⑷ 精神的につらさを感じたら、上司や信頼できる人に相談する

また、所属機関の看護管理者等所属長には、以下を要請しています。
⑴ 支援活動(業務)の内容とリスクに十分気を配る
⑵ 職員やその家族が生活している地域で誹謗中傷やいじめなどの対象になることがないよう、組織として支える対策を検討し、職員を守る

日本赤十字社のサポートガイドも活用を

また、日本赤十字社も3月30日、新型コロナウイルス感染症の対応に従事している人やその家族は、生物学的・心理的・社会的という3つの感染症リスクにさらされることにより、こころの健康を損なう恐れがあるとして、こころの健康を維持するためのサポートガイドを策定し、公表しています*³。是非参考にしてみてください。

なお、手っ取り早いストレス発散法として、叫びの壷 を活用して言いたくても言えずにイライラもやもやしていることを、思いっきり叫んでみるというのはいかがでしょうか。
個人差もあるでしょうが、私は時どきやっています。スッキリしますよ!!

参考資料*¹:新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方
参考資料*²:https://plaza.umin.ac.jp/~dp2012/covid19.html
参考資料*³:日本赤十字社「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応する職員のためのサポートガイド」