COVID-19対策としての「隔離」とメンタルケア




隔離

医療従事者への嫌がらせに
日本災害医学会が抗議声明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延(まんえん)に伴い、感染者のみならず医療の最前線で感染者らの治療やケアにあたる医師や看護師ら医療従事者に向けられる嫌がらせや差別が表面化し、社会的問題になっています。

感染者や医療従事者の家族に対しても、「あなたもコロナに感染しているのでは……」と周囲から容赦ない言葉をかけられるとか、タクシーに乗車拒否されるなど、差別的扱いを受けているとの悲痛な訴えも聞こえてきます。

こうした事態に「日本災害医学会」は、2月22日、COVID-19患者らの対応に従事する医療従事者たちが、周囲から「バイ菌」扱いをされるといったいじめ行為など、信じがたい不当な扱いを受けているとして、抗議する声明を発表しました*¹。

この「不当な扱い」のなかには、保育園や幼稚園から子どもの登園自粛を求められる事態もあるとし、声明は、「もはや人権問題と捉えるべき事態であり、強く抗議するとともに改善を求めたい」とアピールしています。

患者も医療従事者も
社会から「隔離」されている

同時に、こうした事態への対応として日本災害医学会は、COVID-19の対応にあたる医療従事者向けに、感染者と自らがこの感染症への不安や恐怖、さらには周囲からの差別的な情報に振り回されることなくこころの健康(メンタルヘルス)を維持していくにはどうすればよいかを説明するマニュアルやガイドラインを、WEBサイト上で紹介しています。

今回はそのなかから、感染拡大を最小限に食い止めるためにとられる「隔離」という措置に焦点を当てたメンタルケアに関する論文を紹介したいと思います。

これは、米国トラウマティック・ストレス研究センターが医療従事者向けに作成した「COVID-19関連のメンタルヘルス・マニュアル」の日本語版(重村淳 監訳・監修)に収載されている6編のうちの1つ、「コロナウイルスのアウトブレイクにおける隔離の心理的影響:医療従事者が知っておくべきこと」と題する論文*²です。

COVID-19の患者もしくは感染者は、感染拡大のリスクを減らすために、家族とも自由に面会ができない隔離された環境に置かれます。

集中治療を必要とするような重症時ならともかく、症状が改善してくるにつれ、患者は1人で隔離されていることにストレスを感じるようになってきます。
そしてこのストレスが、看護師ら医療従事者にぶつけられることも珍しくないようです。

医療従事者もまた、家族にうつしてはいけないからと、家族と離れて病院近くのホテルなどに滞在しているケースも多く、まさに隔離されているような暮らしを強いられています。

新型コロナウイルスによる隔離が
ストレスをもたらす5つの要因

隔離により行動が制限されたり、大切な人と引き離されることなどがストレスをもたらす要因、いわゆるストレッサーとなりうるものとして、本論文では、以下の5点をあげています。

  1. 隔離そのものに対する不満と退屈
    これには、これまでは自分の意のままにできていた自宅や職場における日常的な活動や業務を自由にできなくなること、また、家族や友人などとの社会的・身体的接触が制限されることが含まれる
  2. 生活物資やかかりつけ医療へのアクセスが不十分になること
    これには、食料や水、衣服の交換、マスク、体温計などの不足に加え、慢性疾患で定時処方を受けている場合は、その処方箋が手に入りにくくなることも含まれる
  3. 情報が引き起こす問題
    これには、厚生労働省や保健所、あるいは医療機関からの隔離に関する指示や説明が不十分であったり、伝達が遅れることに加え、SNS上の不確かな情報や根拠のないデマなどによる混乱も含まれる
  4. 隔離期間の延長
    これには、隔離期間が10日以上に及ぶことに加え、回復状況によっては、当初説明を受けた隔離期間が延長されること、などが含まれる
  5. 自身が感染すること、他人に感染させることへの恐怖
    自分の健康や身体症状への関心が高まったり、心配が増したりすることにより現れる。
    特に妊娠中の女性や、幼子を持つ両親が抱く不安は、大きなストレッサーになる

隔離から解放された後にも
3つのストレス要因が

さらに患者の場合は病状が回復して、一方の医療従事者はCOVID-19患者への対応から担当が外れて、あるいは感染拡大が収束して隔離生活から解放された後にも、新たなストレス要因にさらされるリスクがあります。
その要因として、本論文は以下の3点をあげています。

  1. 経済的損失
    これには、隔離期間中の仕事の休業、COVID-19の治療にかかる医療費*、その他予期しない出費による金銭的負担が含まれる。
    この損失は、特に低所得者においてより深刻な社会的苦痛をもたらす可能性がある。
  2. 他人からのスティグマ(偏見)
    隣人、友人、同僚、場合によっては家族からも偏見、拒絶、恐怖と疑いをもって扱われることがある。その場面は、余暇、職場、学校にも及び、避けられたり仲間外れにされるなどし、ときに偏見めいた言葉を投げかけられることもある。
    COVID-19による隔離がもたらすこれらの被害を経験した人々が特定の民族や宗教団体に属する場合、彼らに向けられるスティグマはさらに悪化するリスクがある。
  3. 自分の「通常の」習慣に戻ること
    隔離生活から通常の生活に戻ることへの不安や心配は大なり小なりあるものだ。この不安な状態は、隔離から解放されて以降、数日から数週間、場合によっては数カ月続く場合があることを事前に知らされて、こころの準備ができていると、心配や不安、不満の軽減もしくは解消に役立つ。
*COVID-19の医療費
COVID-19は2020年2月1日、感染症法に基づく指定感染症に指定されている。したがって、指定期間中にCOVID-19の治療にかかる医療費は公費負担となるため、自己負担は、一部の自治体を除き、ゼロとなる。詳しくは、こちらの記事を参照されたい。
→ 指定感染症となった新型肺炎、何が変わるのか

隔離期間中に取り組みたい
患者と自身のこころのケア

  1. コミュニケーションを介入ツールとして活用する
    明確かつ理解可能で実践的なコミュニケーションは、不安やイライラ、意欲の低下といったストレス反応を減らし、普段の行動を守らせることができる。
    COVID-19という病気の特性や隔離が必要な理由など、本人が置かれている今の状況を理解する上で必要な情報を、迅速に、繰り返して伝え、納得が得られるようなコミュニケーションをとることを心がける。
  2. 大切な人とのコミュニケーションを促す
    大切な人が今どうしているかを知ることは、隔離されている者の感情面の健康に大きな影響をもたらし、治療上必要な隔離をより遵守させることができる。逆に、情報が不足していたり、心配なニュースがある場合には、ストレスの増加が予想される。
    隔離生活に入る前には、患者が心身ともに準備を整え、大切な人を安心させかつ一時的な別れを伝えられるように、感染対策上許される範囲で十分な時間をとるようにする。
    隔離中はテレビ電話などを活用して、大切な人同士が連絡を取り合えるようにする
  3. 隔離の準備をする
    隔離が課せられると、通常のように外出して買い物をすることが制限される場合があることを考え、隔離に入る前に必要な物資を備えておくように促す。
  4. 退屈感と孤立感を極力減らす
    隔離中の活動について考えておくことは、退屈を和らげるだけでなく、家族や友人らからの孤立感を軽減するのに役立つ。インターネット環境を整え、SNSへのアクセスを促すことも重要だが、メディアへの過剰な曝露は結果としてストレスを増加させるリスクがあるため、中止する必要がある。
  5. 自分自身をいたわる
    医療従事者自身も隔離の心理的影響を受けやすく、症状に苦しむ患者をケアするストレスと相まって、さらに悪化する可能性がある。
    医療従事者自身の基本的ニーズが満たされていることを確認することが大切である。
  6. 隔離期間はできる限り短くする
    隔離期間について患者に説明する際には、慎重になりすぎて科学的に妥当な期間を超えて伝えることはしないように。また、当初の予定より隔離期間を延長せざるを得ない場合は、そのことをできるだけ早めに伝えて患者の了解が得られるようにする。

なお、「5」の医療従事者自身のストレス対策としてのセルフケアについては、こちらの記事に具体的にまとめてありますので、是非読んでみてください。
→ COVID-19の患者対応で燃え尽きないで!!

また、面会制限時の対応として、テレビ電話面会について書いた記事も読んでみてください。
→ 家族と会えない終末期患者にテレビ電話で面会を

参考資料*¹:日本災害医学会「新型コロナウイルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」
参考資料*²:「コロナウイルスのアウトブレイクにおける隔離の心理的影響:医療従事者が知っておきたいこと」