新型コロナウイルスの感染予防とマスクの着用




マスク

健康な人もマスク着用を
WHOが指針を大幅修正

新型コロナウイルスの感染が世界規模で広がり、感染者が656万人を優に超え、死者も38万人をオーバーするなか、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は6月5日、今年(2020年)1月に作成したばかりのマスクの着用に関する指針を大幅に修正し、公表しています。

この修正指針でWHOは、これまで健康な人がマスクを着用しても新型コロナウイルスの感染を予防できる根拠はないとしてきたことを改め、
「感染が広がっている地域の公共機関や店舗などで人との距離をとることが難しい場合はマスクを着けるよう、各国の政府がすすめるべきだ」と指摘しています。

感染していながら無症状で経過している、いわゆる無症候性感染者(無症状病原体保有者)が他人にウイルスをうつさないためには、マスクの着用が役立つこともあるとする方針に、変更はありません。いわゆる「咳エチケット」の効用です。

そのうえで各国の新型コロナウイルス対策の政策決定者に対しては、国民にマスクの着用をすすめる際には、その目的や期待できる効果、どのような種類のマスクを使うべきか、その取り扱い方などを具体的に示すよう求めています。

同時に、テドロス事務局長は、「マスクだけではウイルスから身を守ることはできない」として、引き継続きソーシャルディスタンスや手指の衛生を励行するよう呼び掛けています。

ウイルスを含む飛沫は
咳で6m、くしゃみで8m飛ぶ

WHOが新型コロナウイルス感染対策としてマスクの着用に関する指針を見直すきっかけとなったのは、米国マサチューセッツ工科大学で最近行われた研究結果です。

研究チームは、ハイスピードカメラやセンサーなどを使い、人が咳やくしゃみをした際に何が起きるのかを正確に観測しました。
その結果、咳では最長6m先まで、くしゃみの場合は最長8m先まで飛沫(ウイルスを含むつばや唾液など)が飛ぶことが確認されたというのです。

この結果をもとに、研究チームは次のことを指摘しています。
⑴ 換気の悪い室内などでは、マスクを着用することにより感染リスクを軽減できる
⑵ 感染者と対面している場合は、マスク着用により感染者からの呼吸の流れを遮断し、大量のウイルスを口や鼻から遠ざける助けになる
⑶ フィルター効果のない薄いマスクでは、空中をただよう微細な飛沫(マイクロ飛沫やエアロゾル粒子)からは守ってくれないだろうが*、勢いよく吐き出される飛沫を正面から受け止めず、横に流す効果は期待できるかもしれない
(*現時点で、新型コロナウイルスが空気感染、つまり空気中をただよう微細な飛沫や粒子を吸い込むことにより感染することを示す科学的エビデンスは得られていない)

米国CDCがマスク着用を推奨する見解を発表

この研究成果を受け、新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大する状況にありながら「予防効果なし」としてマスクの着用を奨励してこなかった米国の疾病対策センター(CDC)は4月3日、従来の見解を修正し、マスク着用をすすめる新たな指針を発表しています。

このなかで、「外出時や周囲の人との距離をとりにくい環境では、マスクなど鼻と口を覆う布の着用をすすめる」としています。

欧州各国でもマスクの効用が改めて見直され、チェコやオーストリアなどでは、新型コロナウイルス対策として、国民にマスクの着用を義務づけるようになっています。

布製マスクに期待できる
感染防止効果は?

一方で、新型コロナウイルス感染対策としてのマスク着用に関するWHOの新しい指針では、安倍晋三首相が「全戸配布」の方針を打ち出して以来、しばしば話題にのぼっている(どちらかと言えば批判的な声の多い)「布製マスク」についても、新しい見解を表明しています。

これまでの指針では布製のマスクについては、「いかなる状況下においてもすすめられない」としてきたところです。

ところが、修正された最新の指針では、
「予防の効果があるかはまだ評価ができていない」
として、推奨することも反対することもできないと、表現を修正しているのです。

布製マスクについては、厚生労働省はWEBサイト上に「布マスクの全戸配布に関するQ&A」コーナーを設け、全国から寄せられるさまざまな質問に答えています*¹。

そのなかの「Q3」では、「布製マスクに効果はあるのですか?」に対する回答として、次の点をあげて、感染の防止に効果が期待できることを伝えています。
⑴ (ウイルスを含むリスクのある)咳やくしゃみなどの飛散を防ぐ(咳エチケット)
⑵ (ウイルス付着のリスクがある)手指で口や鼻に直接触れるのを防ぐ(接触感染予防)
⑶ マスクの着用により喉や鼻が湿潤することにより風邪などにかかりにくくなる
⑷ 洗濯して繰り返し利用することができるため、店頭でマスクを入手できないことに対する不安を解消できる(マスクを求めようと並び、他者と密接するリスク予防にもなる)

また、北里大学医療衛生学部公衆衛生学部の伊与亨講師(公衆衛生学)は産経新聞の取材に応え、布製マスクの「飛沫の飛散を防ぎ他人にうつさない効果は、不織布でできたサージカルマスクと遜色ない」、つまり効果はほとんど同じだと答えています。

医療用マスクは
医療従事者に優先的配布を

WHOの新たな指針は、新型コロナウイルス感染症の感染対策でマスクを使用する優先順位としては、まずは感染患者と接触している医療従事者であるとして、
「医療従事者が使用する(「サージカルマスク」や「N95」など)高性能のマスクは、医療従事者に行き渡らせなければならない」と強調しています。

具体的には、
⑴ 医療用マスクは医療従事者に優先的に配分されるべきとし、
⑵ 一般の人が医療用マスクを使うのを控えるよう呼びかけるとともに、
⑶ 医療用マスクを着用していれば感染を予防できるという誤った理解に基づく安心感により、手洗いや人との物理的距離を1.5m以上とる(ソーシャルディスタンス)など、感染拡大防止の基本的予防策がおろそかになりかねない、
との懸念を表明しています。

新型コロナウイルス感染症の感染対策上重視すべきは、基本的には誰もがこのウイルスを保有している可能性があることを考慮し、外来患者、入院患者の別なく、また検査室などにおいても、すべての患者の診療・ケアにおいて、サージカルマスクによる呼吸器衛生/咳エチケットを含む標準予防策を徹底することとされています。

そのうえで、気管挿管・抜管、気管切開術、ネブライザー療法など、一時的に大量のエアロゾルが発生しやい状況においては、N95マスクなど防護具の着用が必要としています。
詳しくは日本環境感染学会の対応ガイドを参照してください。

3Dプリンターを利用して
「フェイスシールド」を作成

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各国同様わが国においても、医療現場において「サージカルマスク、N95等の医療用マスク」や「フェイスシールド、ガウン等の防護具」が大幅に不足する状況が続いています。

こうした事態を解消するため政府は、国内にある医療用マスク等を優先的に一括購入して必要な医療機関に優先的に配布するとともに、さらなる増産に向けてあらゆる手を尽くし、医療現場に支障が生じないよう取り組む姿勢を明らかにしています。

なお、防護具の「フェイスシールド」については、大阪大学大学院医学系研究科の中島精一特任教授らのグループがメガネフレームの世界的メーカー「シャルマン」との共同研究により、文具店などで市販されているクリアファイルと3Dプリンターで作成した樹脂製のフレームを組み立て、フェイスシールドの開発に成功しています。

フレーム部分の3D設計データとクリアファイルを装着してフェイスシールドを完成させる手順は、プロジェクトチームのWEBサイト上で無料公開されています*¹.

3Dプリンターが身近にない方は、「3Dプリンターが使える場所」でネット検索してみてください。あるいは最近は、歯科技工のプロセスに3Dプリンターが使われているようですから、院内の歯科に相談するなりして挑戦してみてはいかがでしょうか。

あるいは、カチューシャベースのような太めのカチューシャで、できれば内側に滑り止めのあるものをフレーム代わりに使うという手もあります。

なお、マスク着用のまま患者とコミュニケーションをする際には、特に患者が高齢者であったり聴覚障害者の場合の配慮をお忘れなく。

参考資料*¹:厚生労働省「布マスクの全戸配布に関するQ&A」
参考資料*²:大阪大学大学院医学系研究科フェースシールド3Dデータ