コロナ治療の差し控えや中止が必要な事態に備え考えておきたいこと




医療機器

医療資源の制約により
治療の差し控え・中止が必要に

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国の武漢市において世界で最初の感染者が発生してから、間もなく1年になろうとしています。

感染拡大は依然として続いており、2020年12月14日の時点で、世界の感染者数は7200万人を超え、まさにパンデミック(世界的大流行)の状況は収まる気配がありません。

国内においても、第3波の流行により、12月12日には1日の新規感染者数が過去最多を記録し、初めて3000人を超えるまでに至っています。

このまま感染拡大が続き、感染者がさらに増加していくことを考えたとき、新型コロナウイルス感染症の患者に直接対応しているいないに関わらず、関係者の頭をよぎるのは、医療逼迫(ひっぱく)の問題ではないでしょうか。

具体的には、人工呼吸器などの医療機器はもとより、薬剤や医療従事者等の医療資源が大きく制約されるといった、最悪の事態に陥ることが懸念されるのです。

実際にそんなことになれば、医療資源の配分による治療の差し控え、さらにはやむなく治療の中止を余儀なくされるといった事態も少なからず起きてくることが想定されるわけですが……。

医療資源の配分判断に
集中治療医学会等が提言

こうした最悪の事態への備えとして、日本集中治療医学会臨床倫理委員会と厚生労働科学研究の分担研究班、および体外式膜型人工肺(ECMO)の治療を支援する「ECMONET(エクモネット)」が合同で提言をまとめ、日本集中治療医学会誌で公表しています。

題して、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」*¹です。

提言が想定する「最悪の事態」には、言うまでもなく、医療資源の制約により、人工呼吸器などの生命維持装置を用いた治療の差し控え・中止が発生する状況も含まれます。

個人の判断ではなくチームの議論を経て判断

このような非常事態にあっても臨床倫理の原則を守りつつ、医療資源を公正に配分するため、適正な議論を経て行われるべきことを柱に、新型コロナウイルス感染症の診療に携わる医療従事者に以下の7項目の遵守を求めています。

  1. 治療の差し控え・中止の判断は、個人ではなく、医療・ケアチームの議論を経て行う
  2. 治療の差し控え・中止については、医学的に適切かつ妥当であり、患者の意思またはその推定、公正性などを考慮して判断する
  3. 治療の差し控え・中止については、
    ①患者に判断能力がある場合は、患者の意思に基づいて医療を進めることを基本とするが、その意思決定に家族らの合意を得るように努める
    ②患者に判断能力がない場合、家族らの合意に基づく代諾に基づいて医療を進める
    ③患者に判断能力がなく、家族等の代諾者もいない場合は、上記1および2の過程を経て医療の進め方を判断する
    ④患者や家族らの意思は常に変化する可能性があることを忘れず、その変化にも対応する
  4. 治療の差し控え、あるいは中止を判断した場合であっても、緩和ケアを含む適切な医療・看護は変わらずに提供する
  5. 治療の差し控え・中止について、方針決定の過程と医療行為の内容の要点を診療関係記録に、後々検証できるように記載する
  6. 治療の差し控え・中止により精神的・身体的ストレスを生じる患者・家族等、および医療従事者に対しては適切なケアを行う
  7. 医療施設側は、状況に応じた適切な医療資源配分のために、必要な体制と手順を整える

生命・倫理研究会が
人工呼吸器の配分判断に提言

提言では、人工呼吸器やECMOといった医療機器や医療従事者が大きく制約されるという最悪の事態に直面した場合の医療資源の配分について、
「よりよい結果(健康状態の回復)が得られると期待される患者に優先的に資源を振り分ける」
と言及はしているものの、具体的な判断基準については触れていません。

この点については、生命倫理に関わる法律家や医師等でつくる「生命・倫理研究会」が、
3月31日、研究会のWebサイトで公表した、
「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」
のなかで、判断の基本原則を次のように記しています。

「人工呼吸器の装着を含む医療行為を実施すべきか否かの判断は、医学的な適応と患者本人の意思に基づいて行うことが基本原則である。この原則は非常時においても尊重される」

患者本人の意思確認はACPの一環として行う

この場合の、特に人工呼吸器装着に関する患者の意思確認について、提言は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の一環として、以下の方法で行うことが望ましいとしています。

⑴ COVID-19による肺炎を合併しているすべての患者に対して行う
⑵ 意思確認は、容態が悪化する前に行っておく
⑶ 人工呼吸器の装着が必要になったときの装着に対する本人の意向を確認しておく
⑷ 患者が自分で意思決定することが難しくなった際に、自らの意思を推定してもらえる、いわゆる代理人を確認しておく
⑸ 患者の意向として確認した内容は、家族や身内とも共有し、適正に記録しておく

人工呼吸器を取り外す可能性があることも説明

また、容態が悪化して、実際に人工呼吸器が必要な状態になった際には、①現在の病状、②人工呼吸器装着の必要性、④人工呼吸器の装着以外にとり得る手段に加え、以下についてもきちんと説明し、そのうえで本人の意思を再確認することを推奨しています。

⑴ 人工呼吸器による治療を継続しても救命の可能性が極めて低い状態になった場合には人工呼吸器を取り外すこと
⑵ より救命の可能性が高い患者に使用するため、人工呼吸器を取り外す可能性があること
⑶ いかなる場合も、苦痛緩和のためのケアは最大限行われること
⑷ 今後意思決定する力が低下した場合に備え、人工呼吸器装着後に検討される可能性のある治療の変更について、自らの意思を推定する代理人を決めた方がいいこと

差し控えざるを得ない「効果が期待できない医療行為」

提言では、COVID-19が感染爆発するなどの非常事態にあっては、
「人工呼吸器などの不足している医療資源を使用して、効果が期待できない医療を行うことは差し控えざるを得ない」としています。

そのうえで、この「差し控えざるを得ない」医療行為として以下の3点をあげています。
⑴ 救命の可能性がきわめて低い状態の患者に対して、心停止時に心肺蘇生を行うこと
⑵ 救命の可能性がきわめて低い状態の患者に、人工呼吸器を装着すること
⑶ 人工呼吸器を装着後、救命の可能性がきわめて低い状態になった場合に人工呼吸器の装着を継続すること

生命・倫理委員会の提言は、人工呼吸器装着などの治療を差し控える、あるいは中止した後の、患者本人や家族に行うべきケアについても言及しています。
詳しくはこちらの記事を参照してみてください。
→ COVID-19対応における意思決定支援

参考資料*¹:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言