新検査キット登場でPCR検査件数拡充へ期待




コロナ検査

島津製作所が開発した
新型コロナウイルス検出試薬キット

新型コロナウイルスに感染しているかどうかの判断は、現在はPCR検査で行われていますが、国内では、検査数がなかなか増えないことが課題になっています。

そんななか、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が勤務する島津製作所(計測機器・医療機器メーカー)は、4月27日、時宜を得た誠に歓迎すべき発表をしました*¹。

PCR検査の迅速化による検査数の拡充を支援するため、全国の都道府県および政令指定都市などの地方衛生研究所から要請があれば、「新型コロナウイルス検出試薬キット」のサンプル1キット(100検体分)を無償で提供するというのです。

現在行われているポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)による新型コロナウイルスの検出には、鼻咽頭ぬぐい液などの検体から新型コロナウイルスの遺伝子(RNA)を抽出し、それを増幅させるといった煩雑な手作業が必要です。

この人手を要する煩雑さが、多数の検体をスピーディーに検査するうえで妨げとなり、検査件数をなかなか増やせない原因になっていました。

煩雑な手作業不要で、検査時間が半分の1時間に

一方、島津製作所が開発した「新型コロナウイルス検出試薬キット」を使用すれば、検体からRNAを抽出・精製する工程を省くことができます。

そのため、ウイルスを検出する作業に要する人手を大幅に削減でき、従来は検体採取後から2時間以上を要していたPCR検査の全工程を、約1時間に短縮できるとのこと。

そのうえ、煩雑な手作業を行わずに済みますから、人手を削減でき、なおかつ人為的ミスの防止にもつながるというメリットも期待できるのだそうです。

PCR検査件数が増えない原因は
検体採取できる人材の不足も

国内においてPCR検査の件数が増えない、もしくは増やせない原因としては、検査に必要な検体採取を担う人材の不足も指摘されています。

PCR検査に必要な検体採取法としては、新型コロナウイルスに感染していることを想定して、ウイルスが多く存在する可能性がより高い下気道(声門から気管・気管支を経て終末細気管支まで)から検体を採取するのが理想的だとされています。

しかし、この方法では、たとえば患者が人工呼吸器の管理下にあれば、無菌的操作のもとに滅菌カテーテルを用いて気管吸引液を採取することになります。

この場合、検体採取時に一時的にエアロゾルが発生して感染拡大につながるリスクがあるなど、誰もがどんな場所でもできる方法ではありません。

そこで通常は、上気道(鼻と口から咽頭、喉頭まで)からの検体採取法が採用されています。
具体的には、鼻の奥深く、咽頭に届くところまで鼻咽頭スワブと呼ばれる長い綿棒のようなものを差し入れて、鼻咽頭ぬぐい液を上気道の検体として採取するわけです。

PCR検査の検体採取に
歯科医師も参加を決定

下気道から検体を採取する場合ほどではないものの、この上気道からの検体採取時にも、飛沫により感染拡大につながるリスクはあります。

鼻咽頭スワブを差し入れる際に咽頭部を刺激するため、採取後に、たとえば歯磨きをしていて、ついうっかり歯ブラシの先でのどの奥を突いてしまったときのように、激しく咳き込む被験者が多く、飛沫が大量に発生して感染拡大につながる危険があるのです。

そのため、一般の閉鎖的な診療所などではなく、陰圧室などの感染対策が整った帰国者・接触者外来のような限られた場所で、医師、もしくは医師の指示を受けた看護師や臨床検査技師が、N95マスク、フェイスシールド、長袖ガウン、手袋などにより完全防護をして対応してきたわけです。
ところが、ここにも人材不足の問題がありました。

この検体採取を担える人材が不足している件について、菅義偉官房長官は4月28日午後の記者会見で、「検査可能な件数を1日2万件まで拡充するため、歯科医師にもお手伝いいただくことになった」と発表しています。

なお、国内で1日に可能なPCR検査の件数については、4月28日の時点で、全国でおよそ1万5000件以上の検査能力を有しているとのこと。
その内訳は、国立感染症研究所がおよそ800件、検疫所がおよそ2300件、地方衛生研究所がおよそ5000件、民間機関がおよそ7500件だと、説明しています。

ドライブスルー検査の導入も
PCR検査の検査件数拡充に

PCR検査件数の拡充に向けた検査体制の強化は、ここにきて全国各地で、さまざまなかたちで取り組みが進められています。
その一つに、「ドライブスルー検査」があります。

ドライブスルー検査では、まずは、会場の入り口で医師等により発熱や呼吸器症状の有無などに関する健康チェックが行われます。
その後、検査が適応と判断された被験者が車に乗ったままPCR検査用の検体採取を受けることができる、といった方法です。

検体採取に要する時間は健康チェックも含め約15分。
採取された検体は、そのまま民間の検査機関などに届けられ、陰性か陽性かのウイルス判定が行われ、保健所などを通じて結果が本人に連絡される、といった仕組みになっています。

たとえばさいたま市(埼玉県)では、市長のリーダーシップのもと、地域の医師会などに運営を委託して、市内4か所にPCR検査を専門に行う「地域外来・検査センター」を設置することを決定し、すでに動き始めているようです。

同様の取組みは、山梨大学医学部付属病院でも、山梨県医師会の医師らの協力を得て、ドライブスルー検査導入の準備が進められています。
ここでは、検体のPCR検査は同病院で行われるようです。

京都市も医師会と連携して、感染者の濃厚接触者や感染後に自宅や宿泊施設で療養した後回復した人など、早期に検査が必要な人を対象に、ドライブスルー方式による検体採取法を導入する方針であることを公表しています。

新型コロナウイルスに感染していても
PCR検査で「陰性」となることも

以上紹介した自治体以外にも、ドライブスルー方式のPCR検査を導入する自治体は数多くあり、検査件数の拡充につながることが期待されます。

ただし、くれぐれも注意したいのは、「心配だから」などという理由だけで、希望すれば誰でもPCR検査を受けられるわけではないということです。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)については、誰もが感染したくないと思うものです。
また、仮に自分が感染していたら早く医療機関を受診して必要な処置を受けたいと、そのためまずは、感染者との濃厚接触の有無に関係なく、また感染を疑うような症状がなくてもPCR検査を受けておきたいと思うでしょう。

検体採取のタイミングや採取場所が精度を左右

しかしPCR検査には、検査のために採取した鼻咽頭ぬぐい液などの検体にウイルスがいない、もしくはウイルスの量が少なすぎると、いかに精度の高いPCR検査であっても、仮に感染していてもウイルスを検出できないといった限界があります*²。

具体的に言えば、新型コロナウイルスに感染していても、検体の採り方や場所、感染からの経過日数などによっては、ウイルスを見つけることができず、PCR検査は「陰性」、つまりウイルスに感染していないといった結果になります。

この場合は、正確に言えば「偽陰性」なのですが、検査結果が「陰性」だったからと安心して外出したりすれば、「歩く感染源」として感染を拡大させることにつながってしまいます。
PCR検査では感染者のおよそ30%が、この偽陰性と判定されてしまうことがわかっています。

したがって、何が何でもPCR検査の件数だけが増えれば安心ということではなく、検査は必ず医師の健康チェックとセットで受けること、また感染リスクの高い人や濃厚接触者が優先的に受けられるようにしていきたいものです。

なお、COVID-19の感染者がPCR検査で陰性が確認されて退院したものの、その後「再陽性」になったというケースが少なからず出ています。
この点については、こちらの記事を読んでみてください。

新型コロナウイルス感染患者がPCR検査で「陰性」になり退院した後再び「陽性」になったことが話題になっている。持続感染はありうることなのだが、PCR検査の感度に疑義を持つ声がある。果たしてどうなのか、PCR検査の検体採取法は一つではないことなど、まとめた。

参考資料*¹:島津製作所2020年4月27日お知らせ
参考資料*²:日本疫学会「新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A」