PCR検査や相談の新たな目安を厚労省が発表

電話相談

新型コロナウイルスの相談目安
「発熱37.5度以上」は取りやめ

新型コロナウイルスの感染が疑われる人が相談や受診する目安の見直し作業を進めていた厚生労働省は、5月8日夜、改定した目安を発表しました。

新たに示された「相談・受診」の目安では、従来の「37.5度以上」としていた体温の基準を削除し、具体的な数値の提示は取りやめています。

また、「発熱が4日以上続く場合」としていた条件も外し、
⑴ 発熱や咳など比較的軽い風邪症状が続く場合には相談を、
⑵ ⑴の症状が4日以上続く場合には「必ず相談を」、
と改めています。

相談先としては、まずは保健所に設置されている「帰国者・接触者相談センター*¹」」(名称が異なる地域もある)に電話にて相談してほしいと呼び掛けています。
同時に、地域によっては地元の医師会や診療所などでも受け付けている旨、付記しています。

今回の見直しで「37.5度以上」という具体的な数値を削除した理由として、厚生労働省は、
「発熱や体調には個人差があることに配慮した」と説明しています。

新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの流行が重なり、発熱等を訴える患者が増加するのを見込み、厚生労働省は、発熱などの風邪症状があり新型コロナウイルスの感染を疑ったときは、まずは「かかりつけ医」など身近な医療機関に電話で相談するよう促している。

自分の平熱と比べて高熱だと判断したら相談を

ただ、新たな目安で体温に関する言及がまったくないわけではありません。

これまで「すぐに相談する」ことを推奨していた「息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)」に「高熱」を加え、
「息苦しさや強いだるさ、高熱などの強い症状のいずれかがある場合」は、直ちに相談するよう呼び掛けています。

この「高熱」について厚生労働省は、
「『高熱』かどうかは、自分の平熱を踏まえたうえで判断してほしい。平熱の値は人それぞれであり、いつになく熱っぽく、体温を測定してみたら高熱だといった場合は、躊躇なく相談してほしい」としています。

重症化リスクのある人は軽い風邪症状があれば相談を

また、新型コロナウイルスに感染すると重症化リスクのある、
▪65歳以上の高齢者
▪糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患(持病)がある人
▪肥満(BMIが30以上)
▪人工透析患者(慢性腎臓病患者)
▪免疫抑制剤や抗がん剤を使用している人
▪妊娠中の女性
についても、従来の「風邪の症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合」としていた表現を変え、
「発熱やせきなどの比較的軽い風邪の症状がある場合」
は、すぐに相談するよう求めています。

「嗅覚・味覚障害」は目安ではないが

なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の初期症状の1つとして「嗅覚障害・味覚障害」を訴える感染者が多いことも分かってきています。
特に若者や女性に多いようです。

ただし嗅覚や味覚の障害は、ただの風邪や副鼻腔炎、花粉症が原因で起きることもあります。
新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状ではないこともあり、専門家の間で意見が分かれたため、相談・受診の目安として明記することは見送られました。

とはいえ、嗅覚や味覚に異常を感じ、風邪症状も長引いて新型コロナウイルスの感染を疑った場合は、いきなり耳鼻咽喉科外来を受診するのではなく、まずはかかりつけ医や「帰国者・接触者相談センター」に電話で相談してほしいとしています。

この件に関する日本耳鼻咽喉科学会の見解についてはこちらの記事を読んでみてください。
→ 新型コロナウイルス感染による嗅覚・味覚異常 耳鼻咽喉科学会が受診目安を提示

12月4日に公表された厚生労働省の「新型コロナウイルス(COVID-19)診療の手引き・第4版」では、国内における入院を要した新型コロナウイルス感染症患者の初期症状として味覚障害が17.1%、嗅覚障害が15.1%に見られたことを報告している。

体温の基準を取り外すことが
迅速なPCR検査につながれば

今回、「相談・受診の目安」が見直された背景には、従来の「37.5度以上」としていた数値が、相談・受診の「必要条件」として独り歩きしたことがあるようです。

その結果として相談・受診の抑制につながったり、相談しても「37.5度以上」という条件を満たしていないと判断され、PCR検査を受けるべき人が受けられず、そのため患者自身「感染したのでは?」との不安を払拭できないまま放置されるといった事例が相次いでいたのです。

体温の基準を取り外すことにより、相談や受診のハードルが下がることが見込まれ、よりスピーティーにPCR検査や治療につなげたいとの意向のようです。

軽症者の症状が急激に悪化するリスク

厚生労働省が相談や受診の目安を示した当初は、医療機関に軽症者が殺到して重症者の治療が遅れ、救えるはずの命が救えなくなるような事態を防ぐことが狙いでした。

ところが、新型コロナウイルス感染症の実態が少しずつ明らかになるにつれ、初診の段階で軽症と判断され自宅療養の対象となっていた感染者が、急激な症状悪化とともに急死に至るといったケースが少なからず存在することが指摘されるようになりました。

実際、4月には埼玉県で、自宅療養中の男性2人が死亡するケースが相次ぎました。
これを受けて同月24日には、「軽症」と診断された人の療養場所について自宅は原則禁止とし、都道府県が借り上げた宿泊施設の利用を基本とする方針に切り替えています。

PCR検査体制の整備が課題として残るが

「相談・受診の目安」については、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議も、4月22日の記者会見で、「一部誤解があった」として、見直しを求めていました。
新たな目安により、「なかなか受けられない」など不満の根強かったPCR検査によりスムーズにつながりやすくなることも期待されています。

PCR検査の定義や対象者は国によって異なるものの、専門家会議の資料によれば、人口10万人当たりの検査数は、爆発的な感染が起きたイタリアやドイツでは約3,000件を超えているのに対し、日本は188件と圧倒的に少なく、保健所以外の検査所の整備の遅れや検体採取できる人材の不足、感染防護具の不足などが指摘されています。

相談・受診の目安が刷新されても、PCR検査を実施する受け皿が拡充されなければ、より多くの人が検査を受けられるかどうかは不透明です。

PCR検査の検体採取法については、従来の鼻咽頭ぬぐい液に加えて、被験者自身が自ら鼻の入り口付近の粘液を採取する方法も承認されています。
→ PCR検査 鼻の入り口からの検体採取が可能に

全国で進むPCR検査拡充に向けた取組み

幸い、たとえば東京都医師会は、都内に最大47の「地域のPCRセンター」を立ち上げることを表明しています。加えて、ドライブスルー検査の導入も全国各地で進んでいます。

また、5月8日には富士フイルムが、これまで4時間から6時間ほどかかっていたPCR検査の時間を、およそ75分に短縮できる試薬を開発したことを発表しており、課題となっている検査件数の増加につながることが期待されています。

なお、島津製作所も検査時間を半減できるPCR検査キットを開発しています。
詳しくはこちらの記事を!!
→ 新検査キット登場でPCR検査拡充へ期待

参考資料*¹:各都道府県の「帰国者・接触者相談センター」