新型コロナの感染対策で
家族との面会を禁止? 制限?
新型コロナウイルスの感染拡大防止のための自粛生活が、緩和ケアを必要としている患者とその家族に、面会制限というかたちで、「大切な人との触れ合いを断たれた」生活を余儀なくさせていることを、改めて確認させられる調査結果が公表されています。
日本緩和医療学会や日本ホスピス緩和ケア協会などの研究グループが、全国の緩和ケア病棟(ホスピスを含む)と緩和ケアチームの代表者を対象に、緊急事態宣言が発令された、まさにその真っ最中に実施したインターネット調査*¹において、
⑴ 全国の20%近くの施設が感染予防のために家族の面会を禁止し、
⑵ 98%に当たる施設が、面会を禁止はしていないものの、面会で病室に入る人数や時間を制限していたことが明らかになっているのです。
直接対面に代わるコミュニケーション支援は?
調査では、直接対面による面会を禁止あるいは制限した場合、別の方法で患者-家族間のコミュニケーションを支援しているかどうかを尋ねています。
これには、複数回答で、
⑴ 55%の施設においてオンラインで面会できる環境を整えているほか、
⑵ 98%の施設では、患者が亡くなる直前に限り、感染対策を徹底したうえで、近親者に限り、面会できるように配慮している、
といった実態が明らかになっています。
このように、進行したがんなどにより終末期のつらさを抱える患者にとって、家族と触れ合い、つながりを実感することの大切さを重視した取り組みが行われる一方で、30%の施設が「特に何もしていない」という事実には、疑問を禁じえないとする方が少なくないだろうと思います。
諸外国の実例から予測される新型コロナウイルス感染の第2波を見据えたとき、どのような取り組みが求められるのか、調査結果から考えてみたいと思います。
緩和ケア病棟の約70%と
緩和ケアチーム約50%を調査
本調査は、新型コロナウイルス感染症対策本部から発令された緊急事態宣言が全面解除となる直前の5月11~18日、WEB上にて、記名式で実施されています。
新型コロナウイルス感染症による専門緩和ケアサービスへの影響、具体的には、患者の受け入れ方針の変化や、緩和ケアチームのカンファレンス開催状況、ラウンド時の患者の診察や接触方法における変化、面会状況などの質問に、緩和ケア病棟295施設と489施設の緩和ケアチーム代表者*から有効回答を得ています。
このうち「患者と家族のコミュニケーション」の観点から、面会状況に関する回答を見てみると、緩和ケア病棟295施設のうち「面会制限なし」と回答したのは4施設のみで、ほとんどの施設(289施設)が、条件付きを含め、面会を制限していました。
予測予後が短くなるにつれ
面会制限は緩やかに
この面会制限について本調査では、2親等以内の家族(本人と配偶者それぞれの父母、祖父母、兄弟姉妹、孫まで)との緩和ケア病棟なおける面会について、患者の予測される予後を、
⑴ 予後1週間以上1か月未満
⑵ 予後1週間未満以下
⑶ 予後48時間以内
の3パターンに分け、「面会禁止」「条件付き可能」「面会制限なし」「その他」のなかから該当するものを選択する方式で尋ねています。
この問いに対する回答を見ると、家族との面会に対するとらえ方や実施状況には施設によりかなりの温度差があることがうかがえます。
施設差はあるものの、患者の予測される予後が短くなる、つまり臨終と呼ばれる人生の幕引きのときが近づくにつれ、「面会禁止」とする施設は減少し、逆に「面会制限なし」、つまり直接の面会を認める施設が増える傾向にあります。
なかでも、予後が48時間以内と予測されるような患者のケースでは、35%の施設が無条件で面会を認めていました。
臨終間際の状態になっても
大切な人と言葉を交わせない
一方で6施設と数は少ないものの、患者の予測される予後が「48時間以内」と、臨終間際の状態になっても、家族との面会を禁止していると回答しているところもあります。
おそらく予後が48時間と聞かされた家族は、
「大切な人と言葉を交わせる日が、もしかしたらもう来ないかもしれない」
と考えてしまうのではないでしょうか。
調査はこのようなときの、直接の対面に代わる患者と家族のコミュニケーション支援について尋ねているのですが、これには、複数回答で次のような結果となっています。
- テレビ電話などでのコミュニケーションを支援している 163施設(55%)
- 無線インターネットが使用可能 44施設(15%)
- 病棟内に使用できるパソコンやタブレットがある 19施設( 6%)
- 特に何もしていない 87施設(30%)
新型コロナウイルスに分断され、家族など大切な人と会うこともできずにつらい思いをしている患者にとって、オンラインを活用したテレビ面会によりコミュニケーション支援を行っている施設が半数以上に及んでいることは、明るい情報でしょう。
患者に「大切な人と顔を見て言葉を交わす」時間を
その一方で、リモート時代とまでいわれる現在にあって、緩和ケア病棟で無線インターネットが使用できる施設が15%に過ぎないというのは、なんとも残念な数字ではないでしょうか。
さらに残念なのは、30%の施設が「何もしていない」と答えていることです。
進行したがんなどで緩和ケアを必要としているような感染リスクのひときわ高い患者は、感染対策のいっそうの徹底が重要になるでしょう。
同時に、残された時間が少ない分だけ家族など大切な人との時間を持たせてあげたいと考えたとき、せめてネット環境を整備すると同時にタブレット端末などを備えることによって、
「顔を見て言葉を交わす」時間を用意してあげるのも、緩和ケアの一環ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
なお、入院中の終末期患者のために進められている「終末期医療の現場にテレビ電話面会を広めるプロジェクト」について、こちらの記事で紹介しています。
是非目を通してみてください。
→ 家族と会えない終末期患者にテレビ電話で面会を