新型コロナウイルス感染者のための「ナイチンゲール病院」ロンドンに開設




感謝

ナイチンゲール生誕200年と
母国の新型コロナウイルス事情

「近代看護の生みの親」として名声を博すフローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)が5月12日、生誕200年を迎えます。

世界各地で祝賀式典やさまざまなイベント開催が予定されていましたが……。
今や世界は、新型コロナウイルスとの闘いの真っただ中にあります。

折しも5月5日の報道は、ナイチンゲールの母国イギリスで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者が、イタリアを抜いて欧州で最多となったことを伝えています。

その数は3万人を優に超えていて、そこには犠牲になった看護師ら医療従事者100人余りが含まれているそうです。

こうした事態にイギリス国民の間では、ナイチンゲールがかつて成し遂げた偉業が改めてクローズアップされている、といった話がロンドン郊外で暮らす友人から届きました。

新型コロナが彷彿とさせる
野戦病院のナイチンゲール

ご承知のように、イギリスでは、ボリス・ジョンソン首相が新型コロナウイルス検査で陽性反応が出て入院する、といった事態に見舞われました。

一時期は、集中治療室(ICU)への入室を余儀なくされるほど重症、との報が流れました。
しかし幸いなことに、つい先日公務に復帰し、コロナ対策の陣頭指揮を執っているそうです。

とは言え、諸外国同様に初動の遅れや外出制限の甘さなどを指摘する声が多く、
ナイチンゲールだったら、どんな手を打っただろうか――。
そんなふうに考えるイギリス国民も少なくないようです。

ナイチンゲールが19世紀の半ば、ロシアとトルコの間に勃発したクリミア戦争にイギリスが参戦したのを機に、自ら志願して従軍したことはあまりにも有名です。

従軍看護師団38名のリーダーとして、イギリス軍の野戦病院で、次から次へと送り込まれてくる傷病兵の看護にあたる様子は、新聞記者により逐一母国に伝えられ、戦時下にあった国民に大きな感動と勇気を与えたと伝えられています。

一方でナイチンゲール自身は、この野戦病院で見聞きしたことや体験したことをベースに、「Notes on Nursing:What It Is and What It Is Not」、かの有名な「看護覚え書」をはじめとする多くの著作をまとめあげたことはご存知のとおりです。

集中治療を要する患者中心の
「ナイチンゲール病院」を仮設

ナイチンゲールが活躍した当時の野戦病院とは環境も医療事情も大きく異なることは言うまでもありませんが、イギリス政府は4月、8年前ロンドンオリンピックで競技会場として使われた大型イベント会場内に、新型コロナウイルス感染者のための野戦病院ならぬ仮設病院を開設し、3日(日本時間4日)から始動しています。

イギリスBBC放送によれば、仮設病院としては世界最大規模の4000床が設けられ、軍や民間企業の協力で9日間で完成させたとのこと。

完成した新病院は、
「Nightingale Hospital(ナイチンゲール病院)」と名付けられています。

パーテーションできちんと区切られたスペースが並ぶこの仮設病院には、すでに500台の人工呼吸器が設置されていて、感染者の急増に追い付けずパンク寸前の状態にあるロンドン市内の病院から、集中治療を要する患者らを中心に、順次受け入れるそうです。

聞けば、新型コロナウイルスに感染したジョンソン首相が入院していたのは、かつてナイチンゲールが看護学校を開いていた病院だったとのこと。

没後110年が過ぎた今もなお、ナイチンゲールを誇りに思うイギリス国民が少なくないことを改めて痛感させられます。

ナイチンゲールが説いた
「室内の換気に配慮すること」

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が続くなか、日本でも、看護師ら医療従事者の感染が相次ぎ、感染者となった医療従事者が院内感染の発端者となったとされるケースが数多く報告されています。

国立感染症研究所は4月5日時点での統計値から、全国で発生している院内感染とみられる集団感染(患者クラスター)の、なんと3割は、新型コロナウイルスに感染した医療従事者が原因と推定されるとしています。

しかも、そこで指摘されている感染拡大の要因の一つに、
「スタッフ控室のような換気の悪い密閉空間」
があげられているのを目にしたときは、ちょっと愕然としました。

新型コロナウイルス感染症の院内感染に関する詳しい話はこちらの記事を!!
→ COVID-19院内感染の原因にならないために

換気に関してはナイチンゲールが「看護覚え書き」のなかで、看護の第一の原則として「室内の換気に配慮すること」をあげ、次のように記しています。

よい看護が行われているかどうかを判定するための規準としてまず第一にあげられること、看護者が細心の注意を集中すべき最初にして最後のこと、何をさておいても患者にとって必要不可欠なこと、それを満たさなかったら、あなたが患者のためにする他のことすべてが無に帰するほどたいせつなこと、反対に、それを満たしさえすれば他はすべて放っておいてよいとさえ私は言いたいこと、――それは「患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと」なのである。

引用元:『看護覚え書 看護であること看護でないこと』(現代社)p.9

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけるためにまず取り組むべきは、患者が呼吸する空気のみならず、看護者や医療従事者自らが呼吸する空気も、
「屋外の空気と同じ清浄さに保つこと」でしょう。

そのためには、「できるだけ部屋の空気はいつも屋外から取り入れるようにしよう。窓は開け、ドアを閉めること」だと、ナイチンゲールは説いているのですが……。
あなたの休憩室の空気は、屋外と同じになっているでしょうか。

優れた統計学者だった
ナイチンゲールの「鶏のとさか」

ところで、ナイチンゲールが本領を発揮したのはクリミアの戦地から帰国してからだった、とする論調が根強くあるのをご存知でしょうか。

若いころから学んで身に着けていた統計学の知識を駆使し、イギリス軍の多くの兵士のいのちを奪ったのは、戦闘で受けた傷というより、むしろ兵士たちの栄養状態の悪さや野戦病院の劣悪な衛生環境だった事実を突きとめました。

そして、独自に開発した「鶏のとさか」と呼ばれている円グラフを使い、戦地の実態をヴィクトリア女王や時の政府に説明したのでした。

この報告により、野戦病院の衛生環境や食糧事情が大幅に改善され、兵士の傷病率や傷病兵の死亡率が大幅に低下したと言い伝えられています。

「ナイチンゲールは優れた統計学の実践者でもあった」と言われるゆえんですが……。
さて、今般の新型コロナウイルスとの闘いにおいて、正確な統計に裏づけられた知見は存分に生かされているといえるでしょうか。

ナイチンゲールの統計学者としての側面については、こちらの記事を読んでみてください。
→ ナイチンゲールと統計学と看護研究