感染防止のための自粛生活で
高齢者の活動時間が3割減少
新型コロナウイルスの感染拡大を防止しようと、政府の専門家会議が提唱している「新しい生活様式」では、外出を控えることや人との接触を減らすことが奨励されています。
外出を控えるなど身体活動の制限や、社会的交流の減少を余儀なくされる生活様式は、特に高齢者にあっては、心身両面の機能低下につながることが懸念されます。
その実態を把握しようと、国立長寿医療研究センターと筑波大学の合同研究グループは、新型コロナウイルスの感染拡大で図らずも強いられることとなった自粛生活が高齢者の身体活動に与える影響について、インターネット調査を行っています*¹。
結果は、感染拡大防止のための自粛生活により、高齢者の活動時間がおよそ3割も減少しているというものでした。
活動時間の減少による運動量の減少は、フレイル*や転倒、骨折を招きやすく、要介護状態、つまり介護が必要な状態につながりかねません。
研究グループは、高齢者には、感染予防と身体活動の維持という一見相容れないかのように見える両者のバランスを保ちつつ極力体を動かすように呼びかけていく必要があるとしています。
心身機能の低下による虚弱状態にあり、要介護リスクが高まっている状態のこと。
具体的には、加齢により①足腰が弱り歩くのが一苦労(身体的要因)、②自宅に閉じこもりがち(社会的要因)、③抑うつ的(精神的要因)状態として説明されている。
フレイルにつながりやすいサルコペニアは、入院中の高齢者の「禁食・安静」が引き金となるケースが少なくないことが指摘されている。
半数は運動を続けているが
いずれも1人で行っている
この調査は、新型コロナウイルス感染に係る緊急事態宣言が出ていた4月23日から27日にかけ、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、兵庫、福岡の1都1府6県在住の65歳から84歳の男女1600人を対象にインターネットを介して行われています。
同調査では、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の1月と感染拡大による緊急事態宣言中の4月の、それぞれにおける日々の活動状況(身体活動時間)、および感染拡大後については、活動が制限されるなかでの運動の実施状況について、以下の3点を尋ねています。
⑴ どのような運動を行っているか(運動の種類)
⑵ どのような情報を用いて運動しているか
⑶ 誰と運動しているか
調査結果によると、運動や家事などの活動をしている時間は、緊急事態宣言が出る1月は1週間当たり平均4時間5分でしたが、緊急事態宣言中は約3時間と、時間にしておよそ65分(約3割)も減少していました。
また、緊急事態宣言により活動が制限されているなかで、意識的に「何らかの運動をしている」と答えた高齢者は50%でした。
その運動の種類として多いのは(複数回答可)、「自宅内での運動(35%)」と「ウォーキング(34%)」で、「屋外での運動」は3%にとどまり、いずれも1人で運動しており、「集団での体操をしている」と答えた人はいませんでした。
テレビやインターネットを通じて運動の呼びかけを
また、「どのような情報を用いているのか」、つまり運動する際に参考にしているものについては、「以前より知っていた」が最も多く34%で、次いで「テレビ(9%)」「インターネット(7%)」、「広報誌」と「書籍」がそれぞれ2%となっていました。
以上の結果から、感染予防のための自粛生活により従来の運動習慣が継続できず、明らかに身体活動量が減少している状況がうかがえます。
研究グループは、こうした状況が続けば、感染収束後に要介護高齢者が増加する可能性を否定できないと警告。国がすすめている「新しい生活様式」を遵守しつつ介護予防につながるような屋内での運動や自宅周辺でのウォーキングを、テレビやインターネットを通じて呼びかけていく必要があると指摘しています。
在宅高齢者の健康づくりに
スマホ用LINEアプリの活用を
折しも東京都健康長寿医療センター研究所の社会参加と地域保健研究チームは慶応義塾大学理工学部の研究チームと共同で開発した、在宅での高齢者の健康づくりに活用できる無料のスマートフォン用アプリ「運動カウンター」と「食べポン」を公開しています。
開発の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大は収束に向かってはいるものの、発生する可能性が否定できない第2波、第3波に備え、気を緩めることなく感染拡大を予防するための「新しい生活様式」の励行が求められている点にありました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する前までは、高齢者には、フレイルや認知症の予防策として、地域の「通いの場」などにおける体操や趣味活動といった健康づくり活動への参加など、積極的な外出、社会参加が奨励されていました。
しかし、新型コロナウイルスが完全には収束していない現状にあって求められている「新しい生活様式」では、感染拡大を防ぐために、集って行う健康づくり活動や仲間との交流なども、すべてが厳しく制限されています。
そこで研究チームが考えついたのが、近年では高齢者にも身近な情報伝達手段となっているスマートフォンややインターネットを活用して、直接の交流を伴わない非対面下での健康づくりを提案すること、つまりアプリの開発だったのです。
「運動カウンター」にはフレイル予防に有用な運動動画
開発されたアプリの1つ「運動カウンター」は、スマートフォンアプリLINEのトークルームを利用して、自宅でできる8種類の簡単な運動動画を見ることができます。
8種類の運動としては、フレイル予防に重要な下肢の筋力運動5種類(つまさきあげ、かかとあげ、ももあげ、ひざのばし、スクワット)と、腰痛予防体操(腰ひねり)、口腔体操(あーんー体操)、ウォーキング(散歩)のメニューを利用できるようになっています。
また、メニューの実施回数を記録し、回数によって加算されるポイントを家族や友人らと共有したり、競争したりすることもできるように工夫されています。
「食べポン」で10種類の食品群の摂取状況をチェック
もう一つのアプリ「食べポン」では、健康長寿の疫学研究から編み出された健康長寿のためのバランスの良い栄養摂取につながるとされる10の食品群(肉類、魚介類、大豆製品、牛乳、海藻類、緑黄色野菜、果物類、いも類、油脂類)のうち、1日に摂取した食品群を記録することができるようになっています。
この記録から、足りていない食品摂取を知ることができます。
同時に、10ある食品群のうち何品目を食べたかを得点化し、その得点を家族や友人らと共有・競争することにより、バランスの良い食事摂取につなげる工夫もなされています。
アプリの利用には、スマートフォンとLINEが必要です。アプリ自体は無料ですが、通信料・接続料は本人負担となることを説明したうえで、紹介してみてはいかがでしょうか。
もちろんご自分で利用されるのもOKです。
公開・ダウンロード先は、AIP加速PRISM研究「健康貯金のための運動誘発AI基盤構築」特設ページ「健康Appsシリーズ」(コチラ)です。
参考資料*¹:高齢者の感染予防と身体活動の重要性
参考資料*²:在宅での高齢者の健康づくりに活用可能なスマートフォン用LINEアプリを公開