コロナ医療におけるトリアージと「エイジズム」




選別

新型コロナ感染拡大による
医療体制逼迫とトリアージ

これまで「トリアージ」と聞いてまず頭に浮かぶのは、救急医療の現場、それも地震や火災、豪雨水害といった大規模な災害現場における医療状況でした。

ところが今、トリアージがとりわけ大きな課題となっているのは、新型コロナウイルスの感染拡大により逼迫(ひっぱく)した状況に置かれている医療現場です。

新型コロナウイルス感染症はパンデミック、つまり世界的規模で流行し、国内だけでも累積感染者数はすでに5万人を優に超えています。

この感染者数だけみても、単なる感染症の流行を超える状況です。
むしろ大規模災害として捉えるべきでしょう。

自ずと医療現場には、新型コロナウイルスに感染した多くの患者が連日送り込まれます。
しかも彼らの病気は、隔離を必要とする感染症なのです。

感染対策の面から見ても、受け入れ可能な病床の数には限界があります。
患者に対応する医療スタッフにも、そして治療に必要な医療機器などにも限りがあります。

そのため医療を提供する側としては、医療崩壊のリスクを避けるために、トリアージといったことが否応なく求められてくるのです。

新型コロナウイルス感染症の
軽症者は入院の対象外!?

トリアージとは、医療スタッフや医療機器、医薬品といった医療資源が制限されるなかで、1人でも多くの患者に最善の医療やケアを提供するために、患者の緊急度に応じて、医療機関への搬送や入院、さらには治療についても優先順位を決めることです。

トリアージは、フランス語で「選別」を意味する「triage」が語源です。
この語源から、医療現場で行われるトリアージを、
「いのちの選別」といった表現で説明する人もいます。

たとえば、今私たちが戦っている新型コロナウイルス感染症では、PCR検査で陽性の結果が出て感染者となっても、医師の診察により「軽症」と判断されると、「高齢である」等の重症化するリスク因子がある場合*を除き、自宅療養や宿泊療養とすることを基本としています。

これは、感染者用に確保されている病床数など、医療資源が限られていることを考慮しての対応であり、まさにトリアージの一例といっていいでしょう。

*「重症化するリスク因子のある場合」のリスク因子として、厚生労働省の『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2.2版』*¹では、
「高齢者や基礎疾患(糖尿病・心不全・慢性呼吸器疾患・高血圧・がん)、免疫抑制状態、妊婦など」をあげている。

コロナの医療現場における
高齢患者とトリアージ

このような入院治療に関するトリアージは、まさに生命にかかわるほどの重篤状態に陥り、ために高度医療が必要と判断される重症患者が発生した場合に備えて行われていることです。

たとえば宿泊施設で療養していた感染者が呼吸困難などの症状に見舞われたものの、
「新型コロナウイルス感染症の患者用病床がすべて埋まっていて入院治療を受けられない」
といった事態を招かないように、限られた医療提供体制のなかで最大限の医療を行うためにとられている対応です。

この場合のトリアージでは、高齢の感染者は、
「軽症ではあるが重症化するリスクがあるから入院して治療を受けるように」
と、入院治療の対象として選別されていることになります。

一方で、今回のように感染拡大により医療崩壊を招きかねない状況が発生し、医療現場で人工呼吸器などの高度医療についてトリアージが必要になった場合はどうでしょう。

往々にして高齢者は逆の立場に置かれる、つまり人工呼吸器は高齢者より若者に、といったことが起こりうるのではないかとの懸念があります。

年齢だけを基準にしたトリアージは
エイジズム(年齢による差別)

このような懸念について、日本老年医学会は、先にまとめた新型コロナウイルス感染症の流行期における高齢者の医療・ケアに関する緊急提言のなかで、年齢だけを基準にしたトリアージはエイジズム、つまり年齢による差別そのものであると指摘。

このところのような逼迫した療養環境にあっても、たとえ高齢で重い障害があったとしても、その人に残された期間のQOLを大切にする「最善の医療およびケア」は保障されなければならないとしたうえで、次のように記しています。

COVID-19のような感染症の流行期においては、医療崩壊を招かない対策がまずは重要であるが、万が一そのような医療現場でトリアージをする場合にも、暦年齢だけを基準としたトリアージはエイジズムそのものであり、最大限の努力を払って避けるべきである。

(引用元:日本老年医療学会 2020/8/4提言1.1*²)

その人にとって最善の医療提供には事前の意思確認を

ここにある「エイジズム」について日本老年医学会は、高齢者の終末期医療及びケアに関する「日本老年医学会の立場表明2012」*³において、
「どのような状況であれ、高齢者には、本人にとって最善の医療およびケアを受ける権利がある」としたうえで、
「年齢による差別(エイジズム)に反対する」
と明言しています。

また、「本人にとって最善の医療およびケア」は、必ずしも最新もしくは高度の医療やケア技術のすべてを注ぎ込むことを意味するものではなく、その人の特性に配慮した、その人の望む医療やケアであるとして、事前の意思確認の重要性を強調しています。

参考資料*¹:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2.2版
引用・参考資料*²:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期において 高齢者が最善の医療およびケアを受けるために日本老年医学会からの提言
参考資料*³:日本老年医学会の立場表明2012