新型コロナウイルスの再陽性患者とPCR検査




水滴

新型コロナウイルス感染症の
「再陽性」患者が出現

2月27日早朝、いまや多くの国民にとって最大の関心事と思われる新型コロナウイルス感染症に関し、かなり気になるニュースが流れました。

新型コロナウイルスに感染し1か月ほど入院していた大阪市在住の40代女性が、症状が回復し、6日に行ったPCR検査で「陰性」が確認されたため退院して自宅で療養していたところ、のどの違和感や胸の軽い痛みなどの症状が出て受診し、26日に受けたPCR検査で再度「陽性」となり、再入院したというのです。

このニュースを聞き、とっさに私は、
「ウイルスに感染すると、成人は”免疫”と呼ばれる生体防御機構が確立しているから、多くの場合体内にそのウイルスに対する抗体ができて同じウイルスの感染は受けにくくなるはずなのに、この女性の場合は治りきっていなかったのかしら」と考えました。

ところが、テレビでこのニュースが流れた直後の民放の情報番組で、あるコメンテーターが、
「クルーズ船の乗客の例もあるように、日本のPCR検査は感度が低いのではないか」
などと、上から目線で如何にも得意気に語るのが耳に入ってきました。

「そういう話ではないでしょう」と思いつつ、新型コロナウイルスの登場以来、PCR検査については、さまざまな情報が流れていることが気になっていたこともあり、本当はどういうことなのか探ってみようと、わかる範囲で調べてみました。

ウイルスの感染スタイルには
「一過性」と「持続性」が

今回の女性の件、つまり一度PCR検査で陰性となったのに、再び陽性が確認された件については、感染症対策に詳しい東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授がNHKの取材に対し、
「このケースについて詳しいことはわからないが」
と断ったうえで、次のように説明していました。

「この女性の場合、抗体が十分に作られなかったために、ウイルスを完全に排除することができなかったのではないか。そのため、いったんは症状が治まったものの、体内のどこかに潜んでいたウイルスが、呼吸器以外の場所、たとえば腸などで増殖して、検査で検出できるまでの量に増えたという可能性が考えられます」

この説明を聞いていて、B型肝炎やC型肝炎の患者に関してよく話題になる、ウイルスの「キャリア」のことを思い出しました。

ウイルスに感染には「持続感染」パターンがある

ウイルスの感染スタイルには、一時的な感染で終わる「一過性感染」と、ほぼ生涯にわたり感染が持続する「持続感染」の二つのパターンがあることはご存知のことと思います。

このうち後者の持続感染状態の人の場合は、排除されずに体内に残っているウイルスを保有し続けることになります。
これが、「キャリア」と呼ばれる状態です。

キャリアであっても無症状のまま過ぎることが多いのですが、ときにウイルスが増えて活動しはじめる例が少数ながらあることもわかっています。

このことから考えると、この女性は新型コロナウイルスに「再感染した」と考えるよりも、持続感染の状態だったと考える方が納得がいきます。

実際この女性は退院後、担当医の指示に従って仕事を休み、ずっと自宅でマスクをして静養していたそうです。
だから、家族に感染者がいない限り感染を受ける機会はないでしょうから、再感染ではないと考えていいようです。

ウイルスの持続感染による
「再陽性」の可能性を念頭に

むしろこのケースで考えるべきは、新型コロナウイルス感染症という新興のウイルス感染症においても、少数とは言え、いったん症状が治まり、PCR検査で「陰性」が確認されたからといって安心できない人がいるということではないでしょうか。

実際、中国の広東省では、新型コロナウイルス肺炎の治療後に症状が回復し、肺のCT画像でも回復が確認でき、PCR検査でも陰性化が確認されて退院した患者の14%で「再陽性」が確認されたと報告されています。

とは言え、この「14%」という数値はあまりに高すぎるように思えるのですが……。

いずれにしろ新型コロナウイルス感染症の患者の退院後については、ウイルスの「持続感染」によるキャリアの可能性も考慮し、その可能性が高いと判断される患者に対しては、感染拡大を防ぐ観点からする生活指導の徹底が求められます。

ちなみに、新型コロナウイルに感染した場合、免疫機構が十分機能しないために抗体ができにくく、ウイルスを体内から完全に排除できないまま再度症状が現れ、PCR検査で「再陽性」が確認されるといった事態を招きやすいケースとしては、おおむね以下が考えられます。
⑴ 免疫機構が未熟な乳幼児
⑵ がん治療や血液疾患の治療で免疫抑制剤を使用している患者
⑶ 糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患などの持病で定時処方を受けている患者
⑷ 透析治療中の患者
⑸ 低栄養の状態にある高齢者

PCR検査の検体採取法と
ウイルス検出感度

ところで、今回の新型コロナウイルスに感染しているかどうかを判定する検査手法として使われているのは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)法と呼ばれる方法で、検体内のウイルスの遺伝子を増幅させてウイルスの有無を調べる検査法です。
通常は検体採取から感染の有無がわかるまで4~6時間を要すると言われています。

この「PCR検査」でウイルス検出感度がより高い結果を得るには、ウイルスに感染していると想定して、ウイルスが多く存在する可能性の高い部位、具体的には下気道(声門から気管・気管支を経て終末細気管支まで)から検体を採取するのがより理想的だとされています*¹。

■下気道からの検体採取法
下気道(気管から肺まで)から検体を採取するには、患者が人工呼吸器の管理下にあれば、無菌的操作のもとに、滅菌されたカテーテルを用いて気管吸引液を採取することになります。
患者が挿管されていない状態であれば、喀痰を採取します。

いずれの方法をとるにしても、一時的にエアロゾルが発生する可能性があります。
したがって、空気感染の可能性を考慮し、できれば無菌個室にて、検体採取者はN95マスク、ゴーグルなどによる目の防護、長袖ガウン、手袋を装着する必要があります。

■上気道からの検体採取法
このような環境や態勢を用意できる検査状況は限られます。
その際は、咽頭スワブ、あるいは鼻咽頭スワブを用いて鼻咽頭ぬぐい液を上気道の検体として採取します。

この上気道検体については、咽頭スワブよりも鼻咽頭スワブを用いた方がウイルス検出の感度が高いとされています。

ただし、鼻咽頭スワブでは、鼻の奥深く、咽頭に届くところまでスワブを差し入れることになります。その際の咽頭刺激により、採取後に咳き込む被験者が多く、飛沫が大量に発生して感染リスクが高まるため、閉鎖された空間では極力避けたい方法です。

クルーズ船内で行われた検体検出法

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号では、PCR検査で陰性が確認されて下船した乗客が、その後の検査で陽性となったとする報告が相次ぎました。

これを受け、テレビの情報番組のコメンテーターと称する人などから、
「日本のPCR検査は感度が低いのではないか……」などといった声が上がっています。

この点について、厚生労働省の技術参与として船内で活動された高山義浩医師は、まず1点、感染していても無症状の人は検出感度が極めて低いことを指摘しています。

2点目として、船という閉鎖空間における検体採取にはおのずと限界があり、ウイルスを含んでいるかもしれない飛沫による乗客・乗員らへの感染リスクを考え、このリスクを極力低減させる方法として、咽頭スワブによる方法を選択したことをSNSで書いておられます。

なお、陰性から陽性に転化した原因としては、検査方法とは別の要因も考えられます。
ウイルスの持続感染により、船内での検査時には体内のウイルスの量が少なく陰性となったものの、下船後に体内に潜んでいたウイルスが増殖し、再検査で陽性が確認されることは十分ありうることだと考えることができます。

なお、PCR検査については、検体採取後の検査工程にかかる時間を半減できる新しい検査キットが開発されています。詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

島津製作所は自社開発の「新型コロナウイルス検出試薬キット」のサンプルを衛生研究所に無償提供すると発表。PCR検査の時間を半減できるキットの登場は、PCR検査件数の拡充に貢献してくれそうだ。検体採取の人材不足解消策、ドライブスルー検査などについてまとめた。

今のこんな時期だけに、種々雑多な風評が飛び交います。
しかし看護師の皆さんには、確たるエビデンスのない風評に惑わされることなく、ウイルス曝露による職業感染から身を守りつつ、日々の実践に取り組んでいただけるようお願いします。

病院勤務の40代の看護師が、新型コロナウイルスの職業感染で入院との報を衝撃をもって受け止めた方は多いだろう。医療従事者には、そのリスクがあることを認識して予防の徹底を願いたい。同時に、万が一に職業感染を疑ったときは、躊躇することなく迅速な対応を。
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。このまま感染者が増え続けると、一般の医療機関でも感染者対応が求められることに。その想定の元、日本環境感染学会は対応ガイドの第2版で、医療従事者のウイルス曝露リスク評価と対応を提示している。そのポイントをまとめた。

参考資料*¹:2019-nCoV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル