長引くコロナ禍で
注目のオンライン診療
新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一つとして、厚生労働省は2020年2月28日、オンライン診療やオンライン服薬指導の手続きを簡略化することを公表しました。
このウイルスについては、感染者のほぼ8割が、通常の風邪が1週間ほど続いた後に軽快していることが報告されています。
残りの約2割は、風邪症状が数日続いた後に倦怠感や息苦しさを自覚するようになり、入院を要するほど重症化しています。
この重症化の経過をとるのは、高齢者や基礎疾患(糖尿病や心不全、腎疾患などの慢性疾患)があり、定期的に医療機関を受診している患者に多いことがわかっています。
そこで、重症化リスクの高いこれらの患者が、医療機関を受診する際にウイルス感染源と接触して感染するといったリスクを減らす目的から、特例措置として手続きの簡略化を容認し、オンライン診療やオンライン服薬指導を利用しやすくしたわけです。
患者がオンライン診療を受ける際には、診療補助の観点から、看護師さんがその場に立ち合うことも少なくないでしょう。
そんなときのために知っておいていただきたいことを中心に書いてみたいと思います。
慢性疾患等の定期受診者には
オンラインで新たな処方も
保険診療でオンライン診療が認められるのは、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2019年7月一部改訂版)*¹により、慢性疾患*などで初診から6か月以上が経過しており、この間定期的に受診している患者で、事前に診療計画が作成されていることが必須条件となっています。
今回はこの条件を簡略化し、定期的に受診している慢性疾患患者であれば、事前に診療計画が作成されていない場合でも、医師は対面診療、つまり診察室で直接患者と向き合って診療を行わなくても、電話による再診、もしくはスマートフォンやタブレットなどの情報通信機器を用いたオンライン診療により、これまでと同じ薬を処方できるようになりました。
定期受診疾患の病状変化にもオンラインで対応
ただし、これまでこの場合にかかりつけ医が処方できるのは、あくまで「これまでと同じ処方」でした。
仮に患者が同一の疾患により病状が変化するようなことがあっても、新たな薬を追加するとか量を変更するなど、処方内容を変更することは容認されていませんでした。
このことが、ひとつの課題として指摘されていました。
この点については、コロナの感染拡大に歯止めがかからない現状を踏まえ、3月11日、厚生労働省において、「新型コロナウイルス感染症対策としてのオンライン診療」の観点から指針の見直しを行う検討会が開催されています。
この検討会では、特例措置として以下の変更が加えられ、同一の疾患に限られるものの、より柔軟な処方が認められるようになっています。
「慢性疾患を有する定期受診患者において、同一の疾患によって病状が進むなどした場合は、電話や情報通信機器を用いた診療で新たな医薬品の処方を可能とする」
オンライン服薬指導により
処方薬が患者宅に配送される
さらに、オンライン診療でかかりつけ医が発行する処方箋の取り扱いについても、手続きの簡略化が図られています。
通常の診療では、医師が発行した処方箋の原本を患者や家族がかかりつけの薬局に持参し、薬剤師と対面で服薬指導を受けたうえで、処方薬を受け取ることになります。
2月28日に公表されたオンライン服薬指導に必要な手続きの簡略化により、医師がオンライン診療により患者に発行する処方箋は、患者や家族の手を介することなく、医療機関から患者のかかりつけ薬局へFAXにより直接送付されます。
処方箋を受け取ったかかりつけ薬局の薬剤師は、電話やスマートフォンなどを介して患者にオンラインで服薬指導を行い、そのうえでかかりつけ薬局から患者宅へ処方薬を配送することができるようになりました。
オンライン診療で医師が発行した処方箋の原本は医療機関が保管し、後日薬局にその処方箋原本を送付するか、患者が医療機関を受診した際に直接手渡し、患者がかかりつけ薬局に持参することになります。
かかりつけ医がオンラインで
自宅療養中の感染者にできること
新型コロナウイルス感染症に関しては、政府が2月25日、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を公表しています。
このなかで、この先感染がさらに拡大して患者数が大幅に増え、重症患者に優先的に適切な医療を提供する必要性が生じた場合、軽症者や症状の出ていない感染者は自宅での安静・療養を原則とする方針が打ち出されています。
この、自宅での療養を余儀なくされている感染者の経過観察について、3月11日の検討会では、かかりつけ医が電話やスマートフォンなどを使って経過観察できるようにする方向で意見が交わされました。
「相談」にのることはできるが「診療」はできない
ただし、新型コロナウイルス感染症については、以下の点が相次いで指摘されました。
- 患者の慢性疾患の治療にあたっているかかりつけ医が対応することへの妥当性
- オンライン診療では物理的な制約から問診と視診に限定されること
- 対面診療を行わないことによる重症化や見逃しのリスク
結果として現時点では、「感染症の診療をオンラインだけで対応することは現実的ではない」
との意見に集約され、さらに検討を重ねることになっています。
という訳で、自宅療養中の感染者に対し、かかりつけ医はオンライン診療により、病状が変化した場合に相談センターもしくは自らの医療機関を受診すべきかどうかの「相談」を受けることはできても、「診療」はできないことになっています。
時限的処置としてオンライン診療を「初診」から容認
安倍晋三首相は3月31日の経済財政諮問会議*²で、「患者の方々のみならず、新型コロナウイルスとの闘いの最前線で活躍されている医師・看護師の皆様を、院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を活用していくことが重要」と述べ、具体的検討を指示しました。
これを受けてオンライン診療の利用条件緩和を検討してきた厚生労働省は4月5日、感染が収束するまでの時限的処置として、4月13日から、過去に受診歴がある患者に加え受診歴がない患者でも、初診からのオンライン診療を可能とすることを決定しています。
オンライン診療でも公的医療保険が適用され、初診時の患者負担(1~3割)は最大642円プラス処方箋料などとなり、支払いは医療機関により異なるが、銀行振り込みやクレジットカードなど。初診時には本人確認のために、メールやFAXなどを通じて健康保険証の提示が求められます。
オンライン診療が受けられる医療機関のリスト
厚生労働省は4月24日、各都道府県のオンライン診療対応医療機関リストを公表している(コチラ)
オンライン診療において
看護職が実施できる診療補助行為
2019年7月に一部が改訂された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」*¹には、「患者が看護師等といる場合のオンライン診療」という項目が盛り込まれています。
このなかで、患者がかかりつけ医のオンライン診療を受ける際に、看護師等は、「患者の同意を得た上で」患者の側にいることができる、としています。
そのうえで、オンライン診療をする側の医師は、「診療の補助行為を(オンライン診療にて)看護師等に指示することにより、(事前に作成されている診療計画もしくは訪問看護指示書に基づき)予測されている範囲内の治療行為のみならず、予測されていない(患者に見られる)新たな症状等に対する(追加的な)検査なども、看護師等を介して実施可能となる」と説明されています。
新たな疾患を疑ったら対面診療が必要
このうち後者については、新たな症状等に対する追加的検査の指示を看護師等にすることはできるものの、その検査結果を踏まえて新たな疾患を診断したり、新たな薬を処方するなどの治療を行うことは、オンライン診療では禁止されています。
したがって、かかりつけ医がオンライン診療において看護師らに指示して行った追加検査などで新たな疾患を疑った場合は、改めて直接の対面診療で診断を下したうえで必要な治療などを行うことが求められています。
(この点につき厚生労働省は4月5日、新型コロナウイルス感染終息までの時限的処置として、受診歴のない患者の初診もオンライン診療で容認することを明らかにしています)
なお、オンライン診療において看護師等に診療の補助行為を指示できるかかりつけ医は、原則として、その患者を定期的に訪問診療している医師です。
また、診療の補助としてその医師から指示を受けることができるのは、医師と同一の医療機関に所属している看護師等、あるいはその医師から訪問看護の指示を受けている看護師等であることが条件となっています。
なお、かかりつけ医の機能については、こちらの記事を参照してください。
オンライン診療については、「遠隔医療」や「テレナーシング」との違いがあいまいという方も多いようです。その辺のことをこちらの記事で整理しています。
是非読んでみてください。
参考資料*¹:「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2019年7月一部改訂版)
https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf
参考資料*²:内閣府ホームページ
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0331/shiryo_03.pdf