新型コロナウイルス感染の疑いで
自宅療養中の家族にどう対応するか
新型コロナウイルスの感染拡大が進むなか、政府は2月25日、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」をまとめ、公表しています*¹。
このなかで医療については、この先感染者数が大幅に増えた場合に備え、重症者対策を中心とした医療提供体制を整備していく方針であることを打ち出しています。
この方針のもと、感染が疑われる人、あるいは感染者であっても症状が出ていない、いわゆる「無症状病原体保有者」については、「自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センターまたはかかりつけ医に相談したうえで医療機関を受診する」といった対応をとることを奨励しています。
この方針を受けるかたちで日本環境感染学会は、2月28日、「ご家庭に新型コロナウイルスの感染が疑われる人(以下、感染者)がいる場合、同居の方は以下の点に注意してください」とする呼びかけをとりまとめ、WEBサイト上で公表しています*²。
訪問看護師さんはもちろんですが、医療機関勤務の看護師さんにも、たとえば新型コロナウイルス感染症で入院していた患者が、幸い軽快して自宅に退院していく際などの、患者や家族指導に活用していただけるよう、ポイントを整理して紹介したいと思います。
なお、厚生労働省は4月24日、自宅療養中の軽症者が急死するといった事態が相次いだのを受け、自宅療養は子育てなどの理由からやむを得ない場合を除き、原則禁止とし、宿泊施設での療養を原則とする方針に切り替えています。
感染拡大阻止に向けた
家庭内感染対策8つのポイント
同居している家族内に新型コロナウイルス感染が疑われる者が出た時に注意すべき点としては、次の8つのポイントが挙げられています。
- 感染者と同居する家族の部屋は可能な限り分ける
- 感染者の世話はできるだけ限られた人がする
- 感染者はもちろんそうでない人もマスクをする
- 感染者もそうでない人もこまめに手洗いをする
- 定期的な換気をする
- 手で触れる共用部分(ドアの取っ手、ノブ、手すりなど)を消毒する
- 汚れたリネン類や衣類は使い回し、着回しをせずに洗濯する
- 感染者が使用したティッシュなど、ごみ類は密閉して捨てる
感染者の部屋は換気のよい個室にする
「1」にあるように、感染者が療養する部屋はできるだけ個室とし、感染者はその部屋から極力出ないように、行動を制限します。
「5」にあるように、定期的な部屋の換気は感染対策上極めて重要です。
したがって感染者用の個室は、対角線上の両側に窓があり、換気する際に空気が通るような構造になっているのが理想です。
両側に窓がない場合でも、せめて片側だけでも窓があり、定期的に開けて換気できる部屋を選ぶと同時に、エアコンや換気扇などもフル活用して換気を心がけます。
換気は1時間に1回、1回10分間以上が理想とされています。
と言っても、感染者専用の個室を用意できない場合もあるでしょう。
その際は、スクリーンやカーテンなどを設置して空間を遮るようにします。
それもできない場合は、濃厚接触を避けるために、感染者とは常に1m以上の距離(成人が対面し腕を伸ばした距離が目安)を保ち、接触は15分以内にすることを心がけ、ウイルスの飛沫により家族が感染を受けるリスクを極力下げるようにします。
食事も就寝も別の部屋で
感染者は、決められた個室、あるいはスペース内で終日過ごすようにします。
食事をする際も、また就寝時も家族とは別にします。
仮に同じ部屋で就寝せざるを得ない場合は、感染者と家族の頭(枕)の位置を互い違いにして、咳やくしゃみによる飛沫感染を防ぎます。
トイレやバスルームなど共用スペースを感染者が利用した後は、換気をよくすること。
また、感染者が共用スペースを使用した後は、時間を少し置くことで、十分換気されてから使用するようにします。
このときドアノブやレバーハンドルなどの消毒も忘れずに。
お世話は被感染リスクが最も低い1人に決める
感染者の自立度が低く、身の回りの世話が必要なケースもあるでしょう。
あるいは自立度自体に問題がなくても、感染者が家の中を歩き回るのを避ける意味でも、家族のだれか1人は、お世話係が必要です。
その世話係を決める際には、ウイルスに感染すると重症化するリスクが高いとされる高齢者、および糖尿病などの持病により定時処方を受けている人、抗がん剤や免疫抑制剤を使用中で免疫力の低下している人、また妊産婦は避けるようにします。
感染者も家族もこまめな手洗いとマスクの着用を
新型コロナウイルスは、感染者が咳やくしゃみをした際に周りに飛び散る飛沫を介して感染が広がることがわかっています。
したがって感染予防の基本は、そのウイルスを含む飛沫を直接周りの人に浴びさせないために感染者がマスクを着用する(いわゆる「咳エチケット」)と同時に、その飛沫を浴びないために家族もマスクを着用することが必要です。
このマスクについては、
①鼻出しマスクや顎マスクにならないように鼻と口をすっぽり覆うこと、
②マスクの表面に触れた手で目や鼻、口に直接触れないこと、
③マスクを外す時は表面に触れず、紐の部分を持って外すこと、
④マスクを外した後は手洗い、あるいはアルコール消毒を行うこと、
⑤マスクはできるだけデイリーユーズとして使い捨てにすること、
などを厳守することが大切です。
ウイルスの付着した手で目や鼻、口などを触ると、粘膜を介して感染するリスクが高いことを説明し、手洗いの大切さと方法を、できるだけ具体的に指導しておく必要があるでしょう。
新型コロナウイルスの生存期間は長い
新型コロナウイルスの生存期間については、CDC(米国疾病対策センター)が2月27日、ドアノブや手すりなどの表面では2時間程度だが、段ボールやプラスチックなどの表面では、さらに長時間にわたり感染力を持った状態で生存し続けることを報告しています。
したがって、タオルや食器類などを感染者と共用しないこと。
また、感染者が使用した食器類は十分な流水でしっかり洗い流すことを厳守します。
ドアノブなどの消毒には、消毒用アルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを使います。
0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を薄めてもOK)で拭き、その後水拭きしておけばドアノブなどが変色する心配はありません。
直接手で触れないような場所も含め、室内の清掃はこまめに行います。
その方法としては、市販の家庭用洗剤を使用して汚れやホコリを落とし、その後水拭きした後に、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用消毒剤を使用します。
体液などで汚染されたリネン類の扱いには手袋を
新型コロナウイルス感染症の主な症状は呼吸器症状ですが、ごくまれに下痢などの消化器症状が出ることがあるようです。
いずれにしても、感染者の痰や唾液、下痢などで汚染されたリネン類や衣類、およびタオル類を取り扱う際は、マスクと家庭用の手袋をすること。
ただし、特に消毒までする必要はなく、家族の洗濯物とは別にして、家庭用洗剤でいつものように洗濯機で洗い、よく乾燥させておくことが大切です。
感染者が使用したティッシュは密閉できる袋へ
新型コロナウイルス感染症は風邪のような症状が続くのが特徴です。
感染者が鼻水や痰などを処理したティッシュにはウイルスが付着している可能性があり、しかもそのウイルスの生存期間は少なく見積もっても2時間とされています。
汚染されてゴミとして出されるティッシュなどによる感染リスクを考え、使い終わったらすぐにビニール袋に入れてきっちり密閉し、普通のゴミとして処理します。
その後、手洗いをすることを忘れないように。
感染者の症状軽快後も
14日間は健康状態のチェックを
新型コロナウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、平均して5日ほどですが、長い人では10日以上のこともあるようです。
また、感染していても無症状で経過する人もいて、この場合は仮にPCR検査をしても陰性に出ることが多いようです。感染者の家族や同居している人のなかには、既に感染している人がいる可能性もあることを念頭に置くべきでしょう。
感染者の風邪症状が軽快しても安心することなく、症状が治まってから 14日間経過するまでは、感染者はもちろんですが、同居している家族も健康状態のチェックを続けること。
その後、職場や学校に行くなど外出する際は、マスクの着用とこまめな手洗いを厳守することが大切です。
参考資料*¹:「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599698.pdf
参考資料*²:「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/dokyokazoku-chuijikou.pdf