COVID-19院内感染の原因にならないために

感染対策

COVID-19院内感染は
発端者の3割が医療関係者

このところ、病院勤務の医師や看護師ら医療関係者が新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に感染するケースが相次いで報告されています。

医療関係者がCOVID-19に感染してしまうと、症状の有無や重症度に関係なく、勤務先の医療機関における院内感染の原因となりかねません。

さらには、連携している地域内の医療機関にも、患者や医療関係者を介して感染が拡大し、クラスター(感染者集団)の発生から地域の医療崩壊を起こしかねないといったリスクが伴います。

国立感染症研究所(以下、感染研)が、COVID-19の院内感染とみられるクラスターの発端者を発症日に基づいて推定したところ、4月5日の時点で、その70%は患者でしたが、30%は医療関係者だったそうです。

こうした事態を深刻に受け止めた感染研と国立国際医療研究センター 国際感染症センターは、4月7日に改訂した医療関係者等の感染予防の指針である
「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」*¹に、
新たに「医療関係者の感染予防策」の項を設け、
医療関係者がこの先さらに徹底して実行すべき感染防止策を提示しています。

3タイプある院内感染源となる
医療者のCOVID-19感染

新設された「医療関係者の感染予防策」では冒頭で、医療関係者は、COVID-19の感染者に濃厚接触して、そのウイルスに曝露する(身をさらす)機会が多いことを指摘しています。

そのうえで、いったん感染すると、自身が院内感染の原因、それも「歩く感染源」となり得るリスクが高いことを十分認識し、感染防止策を講じる必要があると警告しています。

具体的には、医療関係者がCOVID-19に感染するタイプとしては、おおむね以下の3つに分類されることを紹介し、タイプ別に感染防止策を解説しています。

⑴ COVID-19と診断または疑われている患者を診察・ケアして感染
⑵ COVID-19と診断または疑われていない患者を診察・ケアして感染
⑶ 市中や医療従事者間での感染

診断も疑いもない患者からの感染防止策

⑴については後述しますが、まずタイプ⑵の「COVID-19と診断もされていないし疑われてもいない患者からの感染」を防ぐためには、病院を訪れる患者のなかにはCOVID-19の無症候性感染者、つまり症状はいっさい現れていないものの新型コロナウイルスに感染し、ウイルスを保有している患者が存在し得ることを念頭に置く必要があります。

この認識のもと、COVID-19の疑いの有無に関係なくすべての患者を対象に、標準予防策に加え、以下を遵守して対応することを求めています。

  1. 外来患者の待合室では、発熱や呼吸器症状を訴える患者とその他の患者、および発熱や呼吸器症状を訴える患者同士が、一定の距離、最低でも1.5~2mの間隔を保てるように配慮する(フィジカルディスタンスの確保)
    その際、呼吸器症状のある患者にはサージカルマスクの着用を促す
  2. 医療従事者は標準予防策を常に遵守する
    ①呼吸器症状のある患者の診察・ケアには、サージカルマスク着用と手指衛生を励行する
    ②サージカルマスクや手袋を外す際には、環境を汚染しないように留意しながら外す
    ③外したマスクや手袋は所定の場所に破棄する
    ④その後、手袋をしていたことを過信することなく、手指衛生を行う
    ⑤手指衛生の前に目や鼻など、顔を素手で触らない
  3. 風邪症状や発熱、強い倦怠感や呼吸困難といった症状のある患者は迅速に隔離し、状況に応じてPCR検査の実施を考慮する

市中や医療従事者間での感染防止策

タイプ⑶の「市中や医療従事者間での感染」を防ぐためには、日常生活において、また職場でも「3つの密(密閉、密集、密接)」を徹底して避け、感染するリスクをとらないことが最も重要だとしています。
そのうえで、さらに職場においては以下を実行するよう求めています。

  1. 院内では院内感染対策を徹底し、事務室や休憩室のような換気の悪い密閉空間では多くの人が密集するのを避けるとともに、以下を遵守する
    ①定期的に(日中は1時間に2回程度、 1回10分程度)換気をする
    ②共有物を減らす*
    ③集団での食事にはリスクがあることを認識する
  2. 医療機器等の実用機器はこまめに消毒する(グルタラールやフタラールを使用)
  3. 自らの健康管理に注意し、発熱や呼吸器症状を自覚した場合は職場には出勤せずに、電話等で職場の管理者と相談する
*共有物による院内感染
厚労省のクラスター対策班は4月7日、CONID-19の院内感染が発生した国立病院大分医療センターでは、医師や看護師が共有するタブレット端末などを介した接触感染と、マスクを外すこともあるスタッフ用休憩室で感染が拡大した可能性が高いことを指摘*²。
この病院では、職員のマスク着用や院内の消毒など、院内感染対策は徹底されていたが、患者情報を入力する端末のキーボードやマウスまでは消毒していなかった、とのこと。
ちなみに、新型コロナウイルスはプラスチックや段ボールなど固形物の表面では、最長で3日間(乾燥した冬場では9日間との説も)生存できることが報告されている。

COVID-19の疑いがある人や
COVID-19患者ケア時の感染対策

わが国ではCOVID-19は、2月1日に感染症法に基づく「指定感染症」に指定されています。
そのため、COVID-19と診断された患者は、全国に約400ある感染症対策に必要な設備や医療チーム体制が整備されている感染症指定医療機関に入院することになります。

あるいは、患者の急増による医療提供体制の崩壊を避けるために、COVID-19の無症状者および軽症者は、宿泊療養もしくは自宅療養の方法をとることもあります。

いずれの場合も、COVID-19の疑いがある人やCOVID-19患者との濃厚接触者で何らかの症状を有する人の場合は、「帰国者・接触者相談センター」が紹介する医療機関の「帰国者・接触者外来」などを受診することになります。

したがって、タイプ⑴の「COVID-19と診断または疑われている患者を診察・ケアして感染」するリスクは、現時点では、一部の医療機関に勤務する医療関係者に限られます。

また、COVID-19対策として発熱外来を開設する医療機関が増えていますが、そこでも万全を期して、タイプ⑴のリスクがあると考えて対応をとることになります。

標準予防策&接触・飛沫予防策、防護具の活用も

該当する医療機関に勤務する医療関係者がCOVID-19患者(確定例)、疑似症患者、濃厚接触者のうち、何らかの症状を有する患者を診察・ケアする際には、以下の感染予防策を行う必要があるとされています。

  1. 標準予防策に加え、接触、飛沫予防策を行う
    (受付、案内係、警備員なども標準予防策を行う)
  2. 診察室および入院病床は個室が望ましい
  3. 診察室および入院病床は陰圧室である必要はないが、十分な換気を行う
  4. 次の処置を行う際は必要な防護具などによる感染予防策を行う
    ①PCR検査などに必要な上気道の検体採取(鼻咽頭ぬぐい液採取等)を実施する場合は、サージカルマスク、眼の防護具(フェイスシールドまたはゴーグル)、長袖ガウン(不足の場合はエプロンでも可)、手袋を装着する
    ②気道吸引、気管内挿管など一時的にエアロゾルが発生する可能性がある手技を行う場合は、N95マスク、眼の防護具、長袖ガウン、手袋を装着する
  5. 患者の移動は医学的に必要な目的に限定する

医療関係者が感染者と判明した場合の対応

医療関係者がCOVID-19の感染者であることが判明した場合は、消毒等の対応を行うことは言うまでもないが、部分的にしろ全体的にしろ、一律に施設閉鎖を考慮すべきではなく、患者の発生状況や濃厚接触者*の特定等、疫学調査の結果を踏まえ、必要な場合には保健所と相談のうえ対応を決定すること、としています。

*濃厚接触者の定義が4月21日変更されている。 COVID-19の確定患者が発症した2日前から接触した者のうち、①その患者と同居、あるいは15分以上の接触(車内、航空機等内を含む)があった者、⓶適切な感染防護なしに患者を診察、看護もしくは介護した者、③患者の気道分泌物もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者、④手で触れる、または対面で会話することが可能な距離(目安として1m以内)で、必要な感染予防策なしで患者と15分以上の接触があった者、のことをいう。

参考資料*¹:「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」改訂2020年4月7日
参考資料*²:讀賣新聞オンライン2020/4/8