医療従事者の新型コロナウイルス曝露リスク

武漢ウイルス

新型コロナウイルス感染患者が
一般医療機関受診の可能性も

2019年12月に中国湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界規模で急拡大し、日本時間で2023年2月24日の時点で、世界全体で感染者は6億7400万人を超え、死亡した人は686万人に上っています。

国内でも、感染経路がはっきりしない感染例が次々と報告され、2023年2月24日時点の累計で、3315万7721人が感染し、7万2134人が死亡しています。

クラスターと呼ばれる集団感染例も散見され、その規模は徐々に大きくなってきています。

感染症病床を有する指定医療機関だけで対応していくのは難しく、一般の医療機関での対応も余儀なくされているのが実情です。

こうした事態を想定して日本環境感染学会は、一般の医療機関を主な対象に「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第1版」を作成し、2020年2月13日に公開していますが、その後版を重ねて2023年1月17日にはその第5版を公表しています。

このうち第3版*¹では、看護師等の医療従事者(医療機関で勤務するすべてのスタッフ)が新型コロナウイルス感染症の確定患者またはその疑いのある患者に接触した際の曝露(ばくろ:ウイルスなどにさらされる)リスク評価と対応(健康観察の方法や就業制限)について、詳細に書かれています。

今回は、この対応ガイドの第3版を参考に、ウイルス曝露を中心とする医療従事者の健康管理について書いてみたいと思います。

曝露リスクを4段階に分け
就業制限などの対応を明記

本対応ガイドでは、たとえば外来や検査室において、新型コロナウイルス感染症の確定患者またはその疑いのある患者に対応したすべての医療従事者を一律に就業制限や自宅待機の対象とする必要はないとしています。

患者に対応した際の医療従事者側の状況に応じて、ウイルスへの曝露リスクを「高、中、低、なし」の4段階に分けて評価し、そのリスクに応じて健康状態のモニタリングや就業制限の必要性を判断することをすすめています。

また、新型コロナウイルスへの感染が確定されている患者に外来で接触、あるいは病室でケアするなどしてウイルスに曝露された場合、当事者としては、すぐにPCR検査で感染を受けたかどうかを知りたい、と考えがちでしょう。

この点について本対応ガイドは、ウイルスの曝露を受けた後の早い段階では、PCR検査の検出感度が低いことが予想されるとして、
①すぐにPCR検査に依存するのではなく、
②まずは感染対策上の観点から、曝露のリスク評価を行い、その結果に応じて就業制限などの対応を優先して行う必要があるとしています。

新型コロナウイルス
曝露リスクの評価方法

医療従事者が新型コロナウイルス感染症患者に接触した際の曝露リスクの評価と対応については、本対応ガイドのp.13に「表1」としてまとめられています。

このリスク評価をみると、マスクを含む個人防護具を正しく着脱するか否かで、曝露リスクが分かれることが読みとれます。

そのポイントをまとめると次のようになります。

医療従事者の曝露「高リスク」

▪顔面(眼、鼻、口のいずれか)を個人防護具(アイシールド付きサージカルマスク、あるいはサージカルマスクとゴーグル/アイシールド/フェイスガードの組み合わせ)で覆わずに、大量のエアロゾルを生じる処置*を実施したか、その処置実施中に同じ室内にいた

*大量のエアロゾルを生じる処置には、気管挿管、NPPV(非侵襲的陽圧換気)マスクの装着、気管切開術、心肺蘇生、用手換気(バキング)、気管支鏡検査、ネブライザー療法、誘発採痰(ネブライザーで咳を誘発して痰の排出を促す方法)等が該当する。

医療従事者の曝露「中リスク」

▪個人防護具で顔面を覆ってはいたが、長袖ガウンおよび手袋を装着せずに、大量のエアロゾルを生じる処置を実施したか、実施中の室内にいた

▪顔面(眼、鼻、口のいずれか、またはそのすべて)を個人防護具で覆わずに、マスクを着けていない患者と数分以上、濃厚接触*した

▪手袋を着けずに、患者の分泌物や排泄物に直接接触し、直後に手指衛生を行わなかった

*濃厚接触者の定義が4月21日変更されている。 COVID-19の確定患者が発症した2日前から接触した者のうち、①その患者と同居、あるいは15分以上の接触(車内、航空機等内を含む)があった者、⓶適切な感染防護なしに患者を診察、看護もしくは介護した者、③患者の気道分泌物もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者、④手で触れる、または対面で会話することが可能な距離(目安として1m以内)で、必要な感染予防策なしで患者と15分以上の接触があった者、のことをいう。

医療従事者の曝露「低リスク」

▪マスクまたはN95マスクを着けて、マスクを着けている患者と数分以上、濃厚接触した

▪患者またはその分泌物や排泄物に接触する際に、推奨されるすべての個人防護具(アイシールド付きサージカルマスク、長袖ガウン、手袋)を装着していた

▪手袋を着けずに患者の分泌物や排泄物に直接接触したが、その直後に手指衛生を実施した

▪推奨されるすべての個人防護具を装着せずに、患者(マスク着用の有無は問わない)と、1、2分接触した(受付で短い会話を交わす、病室内に入ったが患者やその分泌物や排泄物に接触していない、患者が退室した直後の病室に入った、など)

なお、N95マスク着用による圧迫創傷対策はこちらを。

新型コロナウイルス感染症は落ち着きを見せてはいるものの、医療従事者には気の抜けない日々が続く。特にその患者対応に当たるスタッフには、N95マスクの長時間装着による圧迫創傷という肌トラブルも悩みだ。日本褥瘡学会によるその予防法を紹介する。

医療従事者の曝露「リスクなし」

▪患者のそばを歩いた

▪患者のそばを歩いたが患者にも、また患者の排泄物や分泌物にも直接接触していない。また患者の病室にも入っていない

症状出現時の健康観察と
無症状者の就業制限

曝露「高リスク」と「中リスク」で症状が出現した場合

▪高リスクでも中リスクでも、発熱や呼吸器症状(咳、息苦しさ、咽頭痛)などが出現した場合は、その時点で直ちに他の人から2m以上離れ、手元にサージカルマスクがあれば着用し、病院に電話にて連絡したうえで受診し、担当医の指示を受ける

▪症状が軽症であれば、最後にウイルスに曝露した日(患者あるいは患者の分泌物や排泄物に最後に接触した日)から14日目までは、自宅において安静に療養する

▪その間は、医療機関の担当部門が曝露した職員に、発熱または呼吸器症状の有無について1日1回、電話やメールにて確認することになる

▪新型コロナウイルス感染症は指定感染症に指定されている。
そのため、症状が重症で担当医が「新型コロナウイルス感染症」と診断し入院が必要と判断した場合は、感染症指定病院への入院措置がとられることになる(入院中の治療費は公費負担)

曝露「高リスク」と「中リスク」で無症状の場合

▪いずれのリスクの場合も、最後に曝露した日(患者あるいは患者の分泌物や排泄物に最後に接触した日)から14日間の就業制限とする

曝露「低リスク」で症状が出現した場合

▪発熱や呼吸器症状(咳、息苦しさ、咽頭痛)などが出現した場合は、その時点で直ちに他の人から2m以上離れ、手元にサージカルマスクがあれば着用し、病院に電話連絡したうえで受診し、担当医の指示を受ける

▪症状が軽症であれば、最後にウイルスに曝露した日(患者あるいは患者の分泌物や排泄物に最後に接触した日)から14日目までは、自宅において安静に療養し、症状に変化があれば直ちに医療機関の担当部門に連絡し、指示を受ける

曝露「低リスク」で無症状の場合と「リスクなし」の場合

▪いずれの場合も就業を制限する必要はない

なお、国立感染症研究所の調査では、4月5日の時点で院内感染とみられる集団感染の発端者(原因)の30%は医療関係者だったとの結果が出ています。
曝露リスクに応じた対応の重要性が改めて提示されています。詳しくはこちらを。

医師や看護師がCOVID-19に感染したことが連日報じられている。院内感染につながるケースも多く、現時点で起きているCOVID-19の院内感染では、発端者の30%が医療関係者とのこと。新たに発表された「医療関係者の感染予防策」のポイントを紹介する。

コロナ対応で燃え尽きないで!!

看護師さんをはじめとする医療関係者の方々は、大変苛酷な状況の中で感染への不安を抱えながらCOVID-19患者に対応しておられることと思います。

くれぐれもストレスからバーンアウト(燃えつき)といった事態に陥らないように、自らをケアすることをお忘れなく!!

WHOの医療従事者に向けたメンタルヘルスに関するメッセージをこちらの記事で紹介しています。是非参考にしてみてください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を救おうと日々奮闘する医療従事者に感謝の声があがっている。一方で、誹謗中傷する声もあり、医療従事者は心身ともに疲弊している。燃え尽きないためのサポートになればと考え、推奨されるメンタルケアを紹介する。

参考資料*¹:「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版」