脱水のリスクは
夏だけと考えていませんか
脱水は、病気や体調不良などにより水分補給が不足して起こる脱水症は別として、通常は、夏の熱中症により起きやすいと考えがちです。
しかし、冬のシーズンは、ただでさえ湿度が下がって空気が乾燥しやすいものです。
そのうえ、暖房の効いた室内では、不感蒸泄、とりわけ皮膚から蒸発する水分量が増えることもあって、脱水のリスクがより高まるとされています。
とりわけ新規感染者(陽性者)が急増するなど、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化している今年の冬は、いつもの冬とは状況が大きく違っています。
感染対策として生活様式が大きく変わり、脱水リスクは例年以上に高まっており、
「ことさら注意が必要」と警告するのは、谷口英喜(たにぐち ひでき)医師(済生会横浜市東部病院患者支援センター長)が副委員長を務める「教えて!『かくれ脱水』委員会」です。
そこで今回は、入院中の患者はもとより、在宅や施設などで療養中の、特に高齢者には万全の備えが求められるこの冬の「かくれ脱水」について、注意喚起の意味も込めて書いてみたいと思います。
深刻な脱水状態の一歩手前の
「かくれ脱水」をご存知ですか
まずは、谷口医師が副委員長を務める「教えて!『かくれ脱水』委員会」をご存知ない方も多いと思いますので、その簡単な説明から――。
「かくれ脱水」委員会は、深刻な脱水状態の一歩手前で、脱水を疑わせるこれといった症状が出ていない状態を「かくれ脱水」と名づけています。
そのうえで、脱水状態および「かくれ脱水」に対する正しい知識と予防方法、および対処方法を広く伝えることを目的に活動している専門家グループです。
中心メンバーは、全国の医療および福祉領域で活動する専門家たち。
看護の立場からは、訪問看護の経験が長く、がんサバイバー支援施設「マギーズ・東京」のセンター長のほか、幅広い活動を続ける秋山正子さんが参加しています。
マスクの着用により
のどの渇きが感知しにくい
コロナ禍の真っただ中にあり、感染対策が最優先される今年の冬は特に注意が必要と警告する谷口医師らが、その主な理由としてあげるのは、次の2点です。
- 感染対策としてのマスク着用により、のどの渇きを感じにくくなっている
- 外出などの行動自粛により運動量が減り、筋肉量が低下している
「1」については、改めて説明するまでもないでしょう。
マスクをしていると自分の息で口の周りが湿っているように感じるものです。
そのため、脱水の重要なサイン*である「のどの渇き」に気づきにくくなっているのです。
また、マスクをしていると、逐一マスクを外して水分を摂ることが面倒になり、つい水分不足になるといった問題もあります。
周りに人がいたりすれば、感染を受けるリスクからマスクを外すことをためらうあまり、ついつい水分補給の機会が減ってしまうということも考えられます。
水分を蓄える筋肉が減少して脱水リスクが高まる
「2」の、感染対策としての外出自粛などによる運動量の低下により筋肉量が減ることと脱水の関係については、ちょっとピンとこないという方も少なくないでしょう。
この点について谷口医師らは、筋肉にはもともと水分を蓄えて体内の水分を一定量に保つ役割を担っていることを指摘しています。
水分を蓄えるための筋肉が減少することは、そのまま体内の水分量が少なくなることを意味します。
結果として脱水のリスクが高まるというわけです。
・皮膚が乾燥してカサつく、皮膚につやがない
・口の中がねばつく、食べ物がパサつく
・便秘になった、あるいは以前よりひどくなった
・手の甲の皮膚をつまみ上げて離した後に、つまんだ跡が3秒以上残る
・脚のスネに”むくみ”が出るようになった
「冬の脱水」の予防策として
1時間に1回は180㎖の水分を
「のどが渇いていなくても、こまめに少量ずつでいいから水やお茶を、できれば時間を決めて飲むことが大切」とのこと。
具体的には、室内にいてあまり動かない場合でも、日中は、1時間に1回は湯飲み一杯程度、目安としては180㎖の水やお茶を飲むといいようです。
外出して体を動かしていたり、室内でも運動をするなどして体を動かしている場合は、さらにこまめに水分補給することがすすめられています。
感染対策をしたうえで「鍋料理を」
加えて、秋山さんは、この時期ならではの対策として、「鍋料理」をすすめています。
鍋料理なら、たんぱく質が豊富な肉類や魚類、あるいは豆腐に加えて、この時期が旬の白菜をはじめ野菜やきのこ類もたっぷり摂ることができます。
栄養バランスの面で理想的なだけでなく、汁も一緒に摂るようにすれば、水分補給にもなりますから、文字どおり一石二鳥です。
ただし、コロナ対策としては、極力1人鍋にしたいところです。
やむを得ず1つの鍋を家族や友人と囲む際には、直箸で食べるのは極力避け、具材を振り分ける専用の箸を用意することをお忘れなく。
なお、政府の新型コロナウイルス対策の分科会は、冬の感染対策として換気に加え、湿度を40%以上に保つことを奨励していますが、この対策は脱水対策にもつながります。
水分補給が難しい高齢者には「誘い水」を
なお、高齢者は脱水リスクが高いものの、誤嚥したりむせるなどの嚥下トラブルにより水分を補給することが難しいケースが多いものです。
この点について秋山さんは、高齢者がスムーズに水分補給をするためのための「誘い水」として、経口補水液 オーエスワンゼリーのような、経口補水液ゼリーを活用することを『何とかしたい!高齢者の脱水』*²と題する動画でわかりやすく解説しています。
日常のケアに活用してみてはいかがでしょうか。
参考資料*¹:かくれ脱水チェックシート
参考資料*²:『何とかしたい!高齢者の脱水』