3密になりがちな休憩室の換気にスパコンが提案




扇風機

職員用休憩室の3密環境が
院内感染の拡大要因に

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の院内感染クラスター(感染者集団)発生事例を分析した結果として、職員用休憩室が感染拡大の1要因に指摘されています。

医療機関によっては、対面する両サイドに窓やドアがあって空気の流通がよく、空間的にも広々とした、感染対策上理想的な休憩室が用意されているところもあるでしょう。

しかし大多数の職員用休憩室は、狭くて職員同士のフィジカルディスタンス(身体的距離)を確保しにくく、そのうえ窓が片面にしかない、あるいは1つもないために換気をしにくい、といった3密(密閉、密集、密接)環境にあるのではないでしょうか。

その結果、1人の無症候性の感染患者から感染を受けた看護師さんから、休憩室で一緒になった別の病棟の看護師さんに、その看護師さんからさらにその病棟の患者に、といったかたちで感染が拡大していった院内感染のクラスター事例が報告されています。

このような3密環境になりがちな職員用休憩室等の換気をより効果的に行う方法について、日本が誇るスーパーコンピューター、通称スパコン「富岳(ふがく)」を使った研究により、いくつかのヒントが明らかにされています。

スパコン「富岳」を使った
飛沫飛散シミュレーション

スパコン「富岳」を使って、高精度な飛沫飛散シミュレーションの研究を実施したのは、理化学研究所や神戸大学などの研究チーム(代表:坪倉誠・理化学研究所計算科学研究センター チームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科 教授)です。

同研究チームは、世界最高の計算速度と高性能の解析能力を誇るスパコン「富岳」を使い、新型コロナウイルス感染症のより効果的な感染対策を探る実験を行っています。

その結果、マスクやフェイスシールドなどによる飛沫拡散防止に加え、病室や多人数が集まるホール、通勤電車内、オフィスといった室内環境における感染リスクを低減するための、より効果的な換気方法が明らかにされています。

換気効果を上げるには
窓とドアを開放して通気を

このなかで、窓を開けて外気を取り入れ換気を促進させることで得られる感染リスクの低減効果について、40人の生徒を収容できる公立学校の教室(8m×8m×3m=192㎥)をモデルに実験が行われています。

その結果、エアコン(換気機能は装備されていない)をフル稼働させた状態で、戸外に通じるすべての窓を左右20㎝開けて外気を取り入れると同時に、対面の廊下側のドアも開放して通気をよくすれば、100秒程度(2分弱)で室内空気を入れ替えることができ、効率的に換気できることが確認されています。

この場合、「休憩時間には戸外に通じる窓を全部オープンにしておくことにより、感染リスクをさらに下げることができる」ともしています。

このような換気方法なら、すぐにも職員用休憩室に応用できるのではないでしょうか。

その際、窓やドアをオープンにして換気した時間を記載しておくチェック表などを窓のそばに貼付しておけば、休憩室を利用する際に、誰でも一目で室内の換気状況を確認できるのではないでしょうか。

エアコンや扇風機等で
空気の流れを起こす

研究チームは、医療機関の一般病室内において、気管挿管時などの医療処置*により一時的に発生し、空気中を飛散するエアロゾル(飛沫より細かい粒子)による空気感染リスクについてもシミュレーションを行っています。

*一時的に大量のエアロゾルが発生しやすい処置としては、気管挿管、MPPV(非侵襲的陽圧換気マスク装着)、気管切開、心肺蘇生、用手換気、気管支鏡検査、ネブライザー療法、PCR検査のための鼻咽頭ぬぐい液採取、などがある。

このシミュレーションでは、82.5㎥の広さに4床が配置された病室で、外部換気機能のないエアコンが設置され、外部に通じていて新鮮な外気が入る窓と、その対面に通気可能なドアがある状況を想定しています。

エアロゾルが充満した病室内に窓を開けて外気を取り入れると、エアコンを停止した状態では、外気が行き届く場所では500秒後に空気が清浄化されます。

ところが、カーテンなどで区切られていて外気が届きにくい場所では換気が不十分で、汚染空気が滞る、という結果が得られています。

しかし、窓を開けると同時にエアコンも稼働させると、エアコンの風により室内の空気が循環することにより換気が進み、空気が清浄化される、との結果が得られたそうです。

この結果から、研究チームは、
「病室のように、仕切りのカーテンなどがあり、その影響で換気ムラができやすい場所では、窓を開けて外気を取り入れるだけでなく、エアコンや扇風機等で室内の空気を循環させることがすすめられる」としています。

この、「窓を開けて外気を入れるだけでなく、エアコンや扇風機により室内の空気を循環させる」との提案も、休憩室の換気方法に生かせるのではないでしょうか。

パーティションの高さも飛散に影響

なお、休憩室に感染対策用の間仕切り(パーティション)を設置する場合は、その高さを、床から1.4m程度にするのが、飛沫やエアロゾルの飛散を遮るには適切とする結果が、オフィスを想定したシミュレーションで明らかにされています。

高さが1.2mでは、飛沫がパーティションの向かい側まで拡散してしまい、逆に高すぎると局所的に換気の悪い場所ができて逆効果になる可能性があるようです。

なお、この研究では、マスクやフェイスシールドの効果的な着用方法や不織布マスクや布マスクそれぞれの飛沫拡散防止効果についても検証が行われています。
詳しくは参考資料*¹をチェックしてみてください。

クラスター感染発生リスクの高い、休憩室のような換気の悪い密閉空間を改善する方法として専門家検討会は、以下をあげている*²。
⑴ 定期的に外気を取り入れる換気の実施(30分間に1回、数分間以上全開放)
⑵ 人の密度を下げる
⑶ 近距離での会話や発声、高唱(大声で歌うこと)をさける

参考文献*¹:室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策
参考文献*²:換気の悪い密閉空間を改善する方法