抗菌薬の適正使用に看護師も積極的取り組みを




抗菌薬

抗菌薬がまったく効かない
スーパー耐性菌の登場

これまで治療効果をあげていた抗生物質、いわゆる「抗菌薬」がまったく効かない、あるいは効きにくくなってしまった「薬剤耐性菌」の増加が、世界的に大きな問題となっています。
なかでも、現時点で使用可能な抗菌薬のほとんどに耐性をもつ「多剤耐性菌」、いわゆるスーパー耐性菌の登場は、深刻な脅威として受け止められています。

薬剤耐性菌によって起こる感染症は、抗菌薬に感受性があり治療効果を期待できる細菌感染症に比べ治療がきわめて困難で、患者は重症化しがちです。

特に、入院中の免疫機能が著しく低下している患者にとっては、薬剤耐性菌、とりわけスーパー耐性菌は、その存在自体が、致命的な結果を招きかねない高リスクとなるため、看護師さんもことのほか慎重な対応が求められることになります。

実際、記憶に新しいところでは、2016年11月、福岡県内の久留米大学病院で、高度救命救急センターに入院中の患者3人が、CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)*と呼ばれるスーパー耐性菌に感染し、このうち1人が亡くなったことが公表されています。
*Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae

このCREによる感染症は、わが国では2014年9月19日、感染症法の5類感染症のうち届出を必要とする疾患の1つに指定されています。
そのため、その患者数は定期的に公表されていて、国立感染症研究所のホームページによれば、2017年6月13日現在の統計では、2016年1月4日~2017年1月1日までの約1年間に、全国で1581人がCREによる感染症を発症し、うち53人(3.4%)が死亡しています。

耐性菌抑制に向け、
国がアクションプランを打ち出す

抗菌薬の不適切な使用がもたらしている、CREなどの薬剤耐性菌による感染症は、世界的規模で急速に拡大しています。そんななか、WHO(世界保健機関)の要請もあり、日本政府は、2016年4月に「薬剤耐性(AMR*)対策アクションプラン 2016-2020」を打ち出しています。*Antimicrobial Resistance

このプランでは、「抗菌薬処方を見直して、薬剤耐性を減らそう!」をスローガンに、2020年時点での成果目標として以下の項目を掲げています。

  • 人口1000人あたりの1日の抗菌薬使用量を2013年水準の3分の2に減少させる
  • セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系の経口抗菌薬の人口1000人あたりの1日使用量を2013年水準から50%削減する
  • 人口1000人あたりの1日の静注抗菌薬使用量を2013年水準から20%削減する
  • 肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる
  • 黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる
  • 大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる
  • 緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる
  • 大腸菌および肺炎桿菌のカルバペネム耐性率を0.2%以下に維持する

抗菌薬の適正使用に関する手引書
2017年に初版完成

アクションプランに掲げられた2020年までの成果目標を達成できるか否かは、日々の臨床における抗菌薬の処方をいかに見直し、適正処方を推進できるかにかかっています。
そこで国は、厚生労働省内に「抗微生物薬適正使用等に関する作業部会」を設置し、抗菌薬の適正な使用を促す医師向け手引書の作成に取り組んできましたが、2017年6月1日に、『抗微生物薬適正使用の手引き』をホームページで公表しています(pdf)。

もともとわが国における抗菌薬の使用量自体は、さほど多くないようです。
しかし、抗菌薬の使用状況をみると、その1日使用量の92.4%を経口抗菌薬が占め、対象疾患は急性気道感染症(感冒、急性副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎)と急性下痢症(サルモネラ腸炎、カンピロバクター腸炎、腸管出血性大腸炎)に、おおむね絞られます。

こうした現状を踏まえ、今回公表された『手引き』では、いわゆる風邪に代表される急性気道感染症や急性下痢症の患者が訪れる外来で診療に携わる看護師を含む医療スタッフを対象に、これらの疾患で訪れる患者に、原則として抗菌薬を投与しないよう求めています。
なお、手引書は2018年5月現在、改定作業が進行中です。

抗菌薬適正使用推進に
看護師も積極的取り組みを

抗菌薬を適正に使用して薬剤耐性菌を減らすことは、ご承知のように、薬を処方する医師の努力だけでできるものではありません。

非常にわかりやすい例をあげると、発熱や咳、喉の痛みなどを訴えて外来を訪れる患者は、概して「先生、つらいので薬をください」となりがちです。
こうした場合の対処法について、『手引き』では、診断・治療の手順を、科学的根拠とともにフローチャートで示し、抗菌薬を使用すべきか否かの判断を助けています。この一連のプロセスは、医師の役割でしょう。

ただ、外来診療に立ち会ったことのある看護師なら一度ならず経験しておられると思うのですが、患者はもとより、付き添ってきた家族も、繰り返し薬を求めるものです。
もちろん抗菌薬を使用しない場合であっても、痛みや発熱があればその対症療法としての薬は処方されます。ところが、これまで何回か同様の症状で受診し、その都度抗菌薬の処方を受けてきた患者は、「前回いただいた薬はいただけないのですか」となりがちでしょう。

このような場合のために『手引き』は、急性気道感染症、急性下痢症それぞれに「患者・家族への説明」のページを設け、ケースをあげて具体的な説明文を紹介しています。

看護師さんには、この説明文を参考に、抗菌薬を使わなくても症状は十分改善できること、そのために食事などの生活面で配慮すべきことを、患者や家族の納得が得られるように繰り返し説明する役割が期待されます。

「抗菌薬適正使用支援チーム」
の構成メンバーに看護師も

抗菌薬の適正使用については、感染防止対策の一環としてより強力に推進する目的から、2018年度診療報酬改定において、抗菌薬の適正使用の取り組みを評価する「抗菌薬適正使用支援加算」(100点「入院初日」)と「小児抗菌薬適正使用支援加算」(80点)が新設されています。

この算定要件には、院内に「抗菌薬適正使用支援チーム」を設置して、感染症治療の早期モニタリングとフィードバック、微生物検査・臨床検査の利用の適正化、抗菌薬適正使用に関する評価、抗菌薬適正使用の教育・啓発などにより抗菌薬の適正使用を推進していること、などがあげられています。

今回の診療報酬改正による評価を受け、抗菌薬適正使用支援チームを設置する医療機関が増えることが予想されます。看護師さんも積極的にチームに参加していくことが、患者・家族の安全・安心につながるのではないかと思うのですが、いかがでしょう。
なお、抗菌薬適正使用支援チームの活動についてはこちらの記事も読んでみてください。

抗菌薬には薬剤耐性菌の問題があり、国際的な脅威となっている。国は先に「薬剤耐性対策アクションプラン」を打ち出し、「抗菌薬適正使用支援チーム」を新設するなど対策強化を図っている。もはや無関心でいられない抗菌薬について理解を深める一冊を紹介する。