エボラ流行でWHOが緊急事態宣言
厚労省が注意喚起と検疫強化
世界保健機関(WHO)は7月18日(日本時間/2019年)、アフリカ中部のコンゴ民主共和国(旧ザイール)の一部で患者が増え続けているエボラ出血熱について、感染が周辺国にも広がるおそれがあるとして、
「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言しました。
これを受けて厚生労働省は同日、海外に出国する人に対し、
①患者の発生地域(現時点ではコンゴ民主共和国やウガンダ共和国)に立ち入らないこと、
②動物の死骸に近づかないこと、
③生肉を食べないことなど、
感染に注意して行動するよう呼びかけています。
同時に、水際対策として空港や港での検疫を強化。
コンゴ民主共和国またはウガンダ共和国への渡航ないし滞在が確認された入国者には、日本に入国後の21日間は、1日2回(朝、夕)、体温や健康状態を自己チェックして検疫所に報告することを求めています。
日本国内ではこれまでエボラ出血熱の患者は発生していません。
しかし2か月後にはラグビーワールドカップ東京大会、来年の2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、海外との交流がいっそう盛んになることが予測されます。
この点を考慮し、厚生労働省は「注意喚起や検疫対応をより強化していきたい」としています。
最も危険な病原体「1類感染症」
エボラの致死率は最悪90%
18日夕方のニュースでは、エボラ出血熱患者の国内発生を想定し、病院スタッフが患者受入れの訓練を行っている映像が、各テレビ局から一斉に流されました。
その映像を目にし、ことの深刻さを改めて認識された方も少なくないのではないでしょうか。
エボラ出血熱は、最悪のケースでは致死率90%とも言われる重大なウイルス感染症です。
わが国の感染症法では、クリミア・コンゴ出血熱や南米出血熱、マールブルク病、ラッサ熱とともに、最も危険な病原体による感染症として「1類感染症」に指定されています。
1類感染症は、ネズミやダニなどを媒介として感染するものが多いのですが、エボラ出血熱の場合はちょっと違います。
患者の血液や体液、吐物、排泄物、場合によっては患者の体液に汚染された注射針などに直に触れるなどして、人から人へと感染が広がります。
流行地のコンゴでは感染者が2500人を超える
エボラ出血熱に感染すると、通常は1週間前後、最長で21日間の潜伏期間の後、突然の発熱、倦怠感、咽頭痛、筋肉痛などの症状を自覚するようになります。
次いで、下痢や嘔吐、出血などの症状が現れるのですが、これらの症状が出ていない患者からは感染を受けるリスクはほぼないようです。
また、エボラ出血熱は空気感染しないのが唯一の救いと言えば救いです。
しかし、接触感染や飛沫感染により感染が広がり大きな流行になると、多数の死者が出るという深刻な感染症です。
実際、コンゴ民主共和国では昨年(2018年)8月以降、すでに2500人以上がエボラ出血熱に感染し、そのうち3分の2を超える1676人が死亡していることが報告されています。
今年6月に入ってからは隣国のウガンダ共和国を訪れた女性の感染が発見され、さらに今月にはルワンダ共和国との国境に近い都市、ゴマでも感染が確認されています。
エボラ原因ウイルス輸入決定
検査体制いっそうの強化へ
これはあくまで想定の段階で終わってほしい話なのですが……。
仮に過去1カ月以内に、エボラ出血熱の流行地に滞在したのち日本に入国した外国人旅行者に38℃以上の発熱が認められたとしましょう。
検疫所は、その旅行者をエボラ出血熱の疑似症患者として、直ちに最寄りの感染症指定医療機関に移送することになります。
疑似症患者を受け入れる側の医療機関は、移送されてきた患者の血液を採取し、直ちにその血液を東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所のウイルス検査専用施設に輸送します。
この施設において、疑似症患者の血液中にエボラ出血熱の原因ウイルスが存在するかどうか、つまりエボラ出血熱に感染しているかどうかを判定する検査が行われることになります。
この間、疑似症患者にかかわる医療スタッフには、二重手袋、サージカルマスクまたはN95マスク、ゴーグルまたはフェースシールド等眼粘膜を確実に保護できるもの、および感染防護服等の装着による厳重な感染予防策が必要となります。
現在は人工的に合成した原因ウイルスを使用
感染の有無を判断する検査をより迅速かつ正確に行うためには、エボラ出血熱の原因ウイルスが必要となります。
しかし現時点でわが国では、エボラ出血熱のような1類感染症に分類される危険な原因ウイルスを保有したり輸入することは、厚生労働大臣が認めない限り、原則的に禁止されています。
そのため、エボラ出血熱のような1類感染症の診断には、人工的に合成した病原ウイルスを使って検査を行っているのが現状です。
しかし、東京オリンピック・パラリンピックなど世界規模の大会開催を間近に控え、海外から持ち込まれる恐れがあるエボラ出血熱のような重大な感染症を迅速に診断し、対処して感染が拡大を阻止するには、1類感染症の原因ウイルスを保有している必要があります。
1類感染症5種類の原因ウイルス輸入を決定
そこで、慎重な検討や協議が重ねられた結果、厚生労働省は7月5日、検査体制を強化するために、エボラ出血熱など1類感染症に指定されている5種類の感染症の原因ウイルスを輸入することを正式決定しています。
このことは、直近のニュース報道などでご承知のことと思います。
今回の決定により、早ければ今年の夏にも海外の研究機関から最も危険とされる5種類の原因ウイルスが輸入される予定です。
しかし具体的な輸入時期や相手国については、
「危機管理上の理由で公表しない」としています。
輸入後の5種類の原因ウイルスは、国立感染症研究所内にある最高水準の防護措置が施されたバイオセーフティーレベル4(biosafty level:BSL-4)の施設内に保管されます。
そのうえで、感染が疑われる疑似症患者が出た場合の迅速で正確な診断、および治療効果や回復の判断のための検査に活用されることになります。
以上、国立感染症研究所のホームページ「エボラ出血熱 検疫所による情報」(コチラ)などを参考にまとめてみました。
いかなる感染症も、冷静かつ安全に対応するには、感染のメカニズムや感染対策の基本をよく知っておくことが最低限必要です。
その点で『看護の現場ですぐに役立つ 感染症対策のキホン (ナースのためのスキルアップノート)』は平易に書かれていますので、日常の臨床に役立つはずです。