人生会議(ACP)のポスター騒動後、新たなポスターに関心が集まっています




家族

ACPの普及を願い作成された
「人生会議」のポスターが……

看護職の皆さんには「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」、あるいは略称の「ACP」という呼び名の方がなじみやすいと思います。

しかし、そもそもACPは、元気なうちから自分のこの先、とりわけ人生の締めくくりとなる「もしものとき」に自分が受けたい医療やケアについて自ら考え、その心づもりを家族や友人たち、さらには自分の健康状態をよく理解してくれている医療関係者らとじっくり膝を交えて話し合いを繰り返す、といった取組みです。

ですから、ACPということに患者本人とその家族を含む一般の方々にも関心を持ってもらわないことには、いくら医療者サイドが力を尽くしても、この取組みはいっこうに前に進んでいきません。

そこで厚生労働省(以下、厚労省)は、ACPをよりなじみやすい名称にして認知度を高め、広く一般の理解を得ようと、「人生会議」という愛称を決めました。
そして、いったんはそのPRポスターまで作成したのですが……。

このポスターに各方面から立て続けに厳しい批判が集中し、ために厚労省もポスターの公開を1日で停止してしまう、といった騒動があったことはご存知のことと思います。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)については、「人生会議」という愛称をつけて普及を試みたものの、思ったほど認知度は上がっていない。そこで厚労省はPRポスターを作成して一層の啓蒙を図った。が、このポスターの評判は悪く、公表から1日で撤収に……。

在宅医が自らの体験を扱った
人生会議の自作ポスターに共感

この騒動を受けて私は、「災い転じて福となす」ということわざそのままに、これをきっかけにして「人生会議」という愛称の知名度が上がり、そこかしこで「人生会議」がもたれるようになることをひそかに期待していました。

騒動から1か月が経った今、それが現実のこととなっているようです。
特にSNSの世界では、個人レベルあるいは自治体による「人生会議」に関する新しいスタイルでの情報発信が続々と出されています。

そのなかで多くの人の納得と共感を呼んでいるのが、福井県福井市で在宅医療を続ける紅谷浩之(べにやひろゆき)医師(在宅療養支援診療所/オレンジホームケアクリニック理事長)が、実際にご自身で看取った肺がんの男性とのエピソードを扱った動画とポスターです*¹。

実は紅谷医師は、厚労省のACPに関する取組みに早い段階からかかわり、「人生会議」という愛称の選定委員でもありました。

ところが、あのポスターの内容については事前になんの相談も確認もなかったとのこと。
そのため公開されたポスターを見たときは驚くと同時に、「こりぁダメでしょ、とも思いました」と、SNSで書いています*²。

人生会議は決めなくていいから
いっぱい話をしよう

誤解しないでいただきたいのですが、紅谷医師のSNSの続きを読んでいくと、ポスターのモデルになっている小籔千富(こやぶかずとよ)さんが「ポスターに表現し演じた行動や気持ち」を否定しているわけではありません。
むしろ「僕は共感と納得しかありません」とあります。

では、何に対して「こりゃダメでしょ」なのでしょうか。
縷々読み進めていうちに、以下のようなことだとわかりました。

人生会議の考え方もかたちも人それぞれに違うものであっていいし、誰かが一方的に「人生会議とはこういうもの」と決めつけるべきものではない。
それなのに厚労省のポスターは、その決めつけをしてしまっている……、と。

人生会議で大事なこととして、紅谷医師は47歳でステージⅣの肺がんに罹患した男性患者との人生会議を扱ったポスターの冒頭で、こんなふうに書きしるしています*¹。

どこで死にたいか、病気になったときどうしたいか。
そんな話ばかりしなくてもいい。
何が好きか、何を大切にしているのか。
決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう         引用元:参考資料*¹

人生会議は普段の
ちょっとしたことをきっかけに

人生会議については、「いつ始めるのか」といったことがよく疑問としてあがってきます。
この点についても紅谷医師は、SNSの長い文面のなかで、「普段から、そして何かあったときも、話し合いを続ける文化が必要です」と書いています。

この一文を読んで、今年(2019年)の春のゴールデンウイーク中に、懇意にしていただいている開業医の先生から聞いた話を思い出しました。

脳卒中の後遺症による軽い片麻痺で自宅療養中の父親が妻と二人で暮らす実家に、10連休を利用して娘さんがお孫さんを連れて戻ってきたときのことです。

たまたま訪問していた医師を交えて、今年の夏もかなりの暑さになるだろうから、熱中症による脱水症予防のために点滴をするかどうかという話になったのだそうです。

このとき、点滴は受けたくないと頑なに言い張る父親に、娘さんが真剣な表情で「点滴をしないということは、延命治療のようなことは受けたくないということなの?」と切り出し、そこへ母親も参加して、文字どおりミニ版の人生会議になった、という話です。

「ちょっとしたことをきっかけに、普段あまり話題にしないようなことでも、とにかく話し合ってみること、自分はこう思っているということをそれぞれが口に出して伝えていくことが、人生会議では最も大事だと、僕は思っている――」
そう、開業医がしみじみ語ってくれたのでした。

まさに紅谷医師の指摘と同じだったなあと、改めて実感させられます。
この話はこちらの記事に詳しく書いてあります。読んでみてください。

死にまつわる話は避けがちだ。そのため「人生会議」の普及はあまり進んでいない。しかし、熱中症が心配されるこの時期、父親の脱水を心配して点滴をすすめる娘との話がきっかけとなり、実は平穏死を希望している旨を家族に伝えることができた父親の話を紹介する。

参考資料*¹:https://twitter.com/orange_be/status/1199995958135640064/photo/1
参考資料*²:https://www.facebook.com/hiroyuki.beniya.9/posts/1704836766320584