がん患者が自分らしく生きるための3ビジョン

約束

がん患者本位の
エンゲージメントとは

「がん患者本位のエンゲージメントを考える会」が2年間にわたり議論してきた内容を提言としてまとめた最終報告書が、書籍として刊行されています。

題して、「『がん患者本位のエンゲージメント』を目指して――がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン――」(日経BP)。

「エンゲージメント」という言葉には、「エンゲージリング(婚約指輪)」からイメージできるように、「約束」とか「関与」、「絆(きずな)」の意味があります。

最終報告書では、支援する側と支援を受ける患者側とが双方向でかかわり合い、つながりを強めることを「患者本位のエンゲージメント」と定義しています*¹。

医療者側からの一方的な「支援」とか「サポート」ではなく、
「双方向でかかわり合いながらつながりを強めていく」
ことをアピールしている点が注目されます。

この定義のもとにまとめられた最終報告書には、がん患者が主体的に社会に出て行き、自分らしく生きていくための3つのビジョン、いわば将来像のようなものが示されています。

さらに、それぞれのビジョンを実現するために、支援する側と支援を受ける側の双方に求められる10の具体的なアクションも提示されています。

今回は、そのアウトラインを紹介しておきたいと思います。

がん患者や家族の悩みを
双方向で考え検討する研究会

がん領域の看護に取り組んでおられる方なら、おそらくは東京大学名誉教授でがん研有明病院名誉院長の武藤徹一郎氏の名をご記憶だろうと思います。

キャンサーボード*のような先進的制度を導入するなど、日本のがん医療の現場を率先して変革してこられた医師のお一人です。

この武藤氏が座長を務める「『がん患者本位のエンゲージメント』を考える会」は、2018年5月から約2年間にわたり、これからのがん医療の課題やがん患者とその家族が抱えるさまざまな悩みの種(いわゆる「ペインポイント」)について、議論を重ねてきました。

本研究会には、がん患者団体の代表者、がん診療に携わる医師・看護師・社会学者など、がんとかかわりのあるさまざまな立場の有識者がメンバーとして参画しています。

看護領域からは、がん研有明病院前副院長・看護部長の榮木実枝(えいき みえ)氏がメンバーとなっています。

*キャンサーボードとは、手術、放射線療法および化学療法に携わる専門的な知識やスキルをもつ医師や、その他の専門医師および医療スタッフが、診療科や職種の垣根を越えて参集し、がん患者の症状、状態、治療法方針等につき意見交換・共有・検討・確認などを行うカンファレンスのことをいう。

がん診療連携拠点病院(2020年4月1日現在、全国に402病院)には、このキャンサーボードの実施が要件として位置づけられている*²。

社会全体でがん患者を
生涯にわたって支える

がん患者や家族が抱える悩みや課題について、本研究会で重ねられてきた一連の議論の内容は、研究会の事務局を務めてきたアフラック生命保険株式会社により最終報告書にまとめられ、今回、書籍として刊行されています。

最終報告書で提言されているビジョンは、以下の3点です。

  • ビジョン1
    社会全体でがん患者を生涯にわたって支える
  • ビジョン2
    一人ひとりが安心して納得できる医療・ケアを受けられる
  • ビジョン3
    がん患者が主役となって自分らしく生きるための素養とスキルを身につける

治療との両立に向けがん患者の就労支援を

まず、ビジョン1の「社会全体でがん患者を生涯にわたって支える」を実現するために必要な具体的アクションとしては、以下の3点が提示されています。

  1. さまざまな関係者による相談機会情報の積極的な提供
  2. がん患者の状況や悩みに応じた「開かれた相談の場」の提供
  3. がん患者への就労支援と経済的支援制度の周知

報告書は、「今までは、がん患者が悩みや不安を抱えても、どこに相談していいかわからないことが多かった」と指摘。

これからは、「がん患者の悩みや不安の内容、その程度によって、相談支援の場を選べるようになる」ことが必要だとしています。

具体的には、がん診療拠点病院のがん相談支援センターだけでなく、民間運営による相談支援の場の設置、さらにはインターネット上のサイトなどでも信頼できる相談が手軽に受けられるようにもしていきたいとしています。

なお、「3」にあるがん患者が治療と就労を両立させるための支援については、こちらの記事が参考になるだろうと思います。

がん治療を受けながら仕事を続けることを希望する患者が増えている。国はその支援策を手引書にまとめ、がん治療中でも無理なく仕事を続けられる体制整備に力を入れている。職場の受け入れや家族の理解に課題が残るなか、看護に求められる支援をまとめた。

病院、地域の別なく
がん患者が納得できる医療・ケアを

ビジョン2の「一人ひとりが安心して納得できる医療・ケアを受けられる」を実現するために必要な具体的アクションとしては、以下の4点が提示されています。

  1. さまざまな医療者によるがん患者本位のコミュニケーションの実現
  2. 病院内におけるチーム医療の普及と定着
  3. 地域における終末期を含む総合的なケアの提供
  4. 一人ひとりに合わせたがん医療の普及と周知

このうち「3」の地域における終末期を含む総合的なケアについては、その実現を経済面から支援しようと、すでに2016年4月に「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」という診療報酬制度がスタートしています。

ただしこの制度には、提供する緩和ケアの質に関する基準がないという課題がありました。

そこで翌年(2017年)の9月には、日本ホスピス緩和ケア協会が、WHOの緩和ケアの定義に基づき「在宅緩和ケアの基準」を作成、公表しています。

すべてのがん患者が病院、地域の別なく安心して納得できる医療・ケアを受けるためには、この基準の普及・実現もまた、課題の一つと言えるのではないでしょうか。

高齢化が進み、在宅で療養生活を送る末期がん患者が増えるのに伴い、在宅における緩和ケアニーズが高まっている。そのケアの質を確保しようと、診療報酬面での改善に加え、在宅緩和ケアの基準が日本ホスピス緩和ケア協会により作成されている。そのポイントを紹介する。

がん患者の素養の一つ
情報リテラシーを高める支援を

ビジョンの3つ目、「がん患者が主役となって自分らしく生きるための素養とスキルを身につける」を実現するために必要な具体的アクションとしては、以下の3点が提示されています。

  1. 医療・ケアを受けるときの基本的な素養の習得
  2. 正しい医学情報を提供する仕組みと場の整備
  3. がん教育の普及と充実

がん患者や家族にとって、がんとともに自分らしく主体的に生きるうえで大きな力となるのは、がん患者自身の「情報リテラシー」であると言われています。

がん患者は、実にさまざまな場面で意思決定を求められます。
その意思決定をより適正に行うためには、判断根拠としての情報が欠かせません。

その必要な情報を効率的に集め、入手した情報を正しく理解して意思決定をしていくことが患者自身に求められるわけです。

それをする能力が、情報リテラシーです。

がん患者が、この情報リテラシーをより高めて意思決定に活かし、その人らしく生きていけるようにかかわっていくこともまた、看護職に期待される重要な役割と考えるのですが、いかがでしょうか。

がんになってもその人らしさを失わずに治療を受けつつ日々の生活を続けていくうえで、大きな力となるのはがんサバイバー自身の「情報リテラシー」だと言われている。意思決定などの場面において、その情報リテラシーを高める支援が看護師に求められている。

参考資料*¹:「がん患者本位のエンゲージメント」を目指して~がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン(日経BP)

参考資料*²:厚生労働省「キャンサーボードについて