看護師は自らの声のトーンも気をつけて

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自分の話し声が
相手にどう聞こえているか

このところテレビから流れてくる女子アナや女性タレントの声に苦情が殺到しているようです。お気づきの方も少なくないでしょう。あの「ハイテンションの甲高い声」が耳障りだというのです。この話を聞き、取材で訪れた病院の待合ロビーで似た話を耳にしたことを思い出しました。

ご夫妻とおぼしき年配のカップルが、「あの看護師さんはよく気がついてくれていいんだけど、早口で、しかも声が高すぎるのは残念だ。もっと静かに、声を落としてゆっくりしゃべってくれるといいのだがなぁ――」と話していたのです。

看護師さんは「患者さんとのコミュニケーション」をとても大切にしています。意思の疎通を図るために「どう話すか」とか、傾聴という言葉に象徴されるように「どう聴くか」「何を話すか」といったことにかなりのエネルギーを注いでおられます。

ただじっくり話を聞くことにウエイトを置く「受動的傾聴」も大事ですが、むしろ医療現場では、話を聞いて相手の意思を確認しつつ、必要なことを伝え、納得を得ながら話を進めていく「積極的傾聴」が大事になってくるという話を書いてみました。

そのわりには、ご自分の声のトーン、つまり「自分の話し声が相手にどう聞こえているか」ということには、案外無頓着ではないでしょうか。というわけで、今回はその辺のことを書いてみたいと思います。

加齢に伴う聴力の変化は
トーンの高い音から聞こえにくくなる

待合ロビーで耳にした先の会話の主の年齢は、60歳代の前半だろうと私には映りました。加齢性難聴(「老人性難聴」とも言う)の話を持ち出すにはまだ若すぎるお歳だと思います。

しかし難聴とまではいかないまでも、40歳代から誰にも起こりうる加齢に伴う聴力の低下は、高音域、つまり高い音から聞きとりにくくなっていくという話を聞いたことがあります。この話をしてくれたのは、取材で訪ねた耳鼻咽喉科の医師でした。

取材記事の読者対象が看護師さんだと知ると、「僕ら医師もやりがちなことですが、これから高齢の患者さんがますます増えますから」と断ったうえで、こんな忠告をしてくれたことを印象深く覚えています。

「特に女性の看護師さんは、患者さんと意思の疎通が図りにくいと感じると、つい声のトーンが高くなりがちですが、これは逆効果です」

相手には音として聞こえてはいるものの、言葉としては伝わっていないため、誤解が生じやすいのだそうです。

「むしろ落ち着いた低音でゆっくり話すほうが、とりわけ話す相手が高齢者の場合には理解を得やすいということを、しっかり書いておいてください」と――。

トーンの低い落ち着いた声は
腹式呼吸のトレーニングから

「落ち着いた低音で話す」と聞いて、NHKで活躍しておられたある女性アナウンサーのことがとっさに頭に浮かびました。すでに定年を迎えられ、最近はフリーランスで活動しておられるますが、彼女の静かなトーンでの落ち着いた話しぶりは実に魅力的でした。

彼女がNHKに在籍しておられた頃、話し方について取材するなかで、「その落ち着いた低音は生まれつきですか?」と尋ねたことがあります。当時の私は、「あなたは声が高すぎる。もっと声を落として話しなさい」と母からしばしば注意を受けていたものですから、この質問が出たわけです。

腹式呼吸をマスターしてお腹から声を出す

これに彼女は少し笑って「腹式呼吸のトレーニングのおかげです」と答えてくれました。

ゆっくり大きく腹式呼吸をしようとすると、否応なく横隔膜の動きを意識します。この、横隔膜の動きを意識しながら腹式呼吸のトレーニングを繰り返し行い、この時の感覚をからだで覚え、声を出す時に横隔膜を上手に使って胸腔を大きく広げることができるようになると、低くて落ち着いたトーンの声を出せるのだと――。

すぐにその日から、私は寝る前の腹式呼吸トレーニングを日課とし、話す時は背筋を伸ばして横隔膜のあたりを意識することを心がけました。

早い話が、喉からではなくお腹から声を出すのです。もちろん効果は大で、以来「声が高い」と母から指摘されることはなくなりました。

この腹式呼吸をマスターするには、たとえば『腹式呼吸エクサ ロングピロピロ ストロング』などを活用するのもいいのではないでしょうか。

同時に、これは蛇足ですが、腹式呼吸はダイエット効果も期待できますから、ダイエット志向の方には、一挙両得です。また、腹式呼吸には不安やストレスによる緊張を緩和してくれるリラックス効果もありますから、ストレス対策としても坐禅の要領でやってみてはいかがでしょうか。

「ボイストレーニング」を
入職時の研修項目に

声のトーンについて改めて調べてみると、最近は幹部クラスのビジネスパーソンの間で、「声の改善がビジネスの成功をもたらす」として、ボイストレーニングの研修に人気が集まっているようです。

この場合の「ボイストレーニング」は、カラオケの点数をあげるためのものではないことはいうまでもありません。念のため!

コミュニケーションの重要性は、医療現場のみならずビジネスのあらゆる場面で重視されています。とりわけ声を介しての「バーバル・コミュニケーション」の重要性から、「何を話すか」はもちろんですが、「自分の話す声が相手にどう聞こえているのか」に神経を使う人が増えてきていると聞きます。

自分の話し声を録音して聞いてみる

その一人が、最近独立して美容院を開業した友人の女性です。彼女は開業前の研修で、スタッフ全員にボイストレーニングを受けてもらったそうです。

といっても特別なことをやったわけではなく、まずは、日常的な会話を録音します。次にそれを聞いて、自分はどう感じたかをスタッフ間で意見交換を行い、そのうえでくぐもり声で聞きにくかったり、妙にウキウキしているように聞こえたり、甲高かったりしたスタッフには、マウスピースを渡して腹式呼吸のトレーニングを義務づけたとのこと。

先日初めてその美容院に行ってみたのですが、トレーニング効果は確かに現れていて、とても気持ちよくヘアカットを受けることができました。

コミュニケーションをことのほか大切にする看護職の皆さんも、ボイストレーニングを入職時などの必須の研修項目に加えてみてはいかがでしょうか。

加齢性難聴を体験してみる

なお、加齢性難聴は50代ですでに始まっている方もいると聞きます。詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

加齢性難聴は高齢者に起こることと理解しがちだが、早い人では50代から始まるという。患者に話していることがきちんと伝わっているかどうかの確認が必要だ。難聴を自覚したら補聴器を使ってくれればいいのだが、その補聴器も補聴器相談医の処方で。

この加齢性難聴は、「高齢者疑似体験」で実際に体験することができます。その辺の話はこちらで書いています。お役立てください。

「若いあなたにはわからない」との高齢患者の言葉に触発され「高齢者疑似体験」に挑戦した28歳の看護師が身をもって体感したことを紹介。「できていることは極力自分で、手助けは最小限に」というケアの原則を守ることが、高齢者の尊厳遵守になると実感したとのこと。